16.特殊条件で現れた強烈な癖

 同じ日本から来ても、状況が同じとは限らない。転生、転移、死に方……日本の時代。様々な条件があり、完全に一致しないだろう。コルジリネの指摘に、ビオラが部屋を見回した。応接用の部屋なので、筆記用具が見当たらない。


「ペンと紙を用意してもらわなくちゃ」


 もっともな言葉に頷いたコルジリネは、双子の騎士を呼んで用意させた。すぐに届いた白い紙とペンが、日本を知る五人の前に並べられる。それぞれが手に取って……ここでクレチマスが左利きだと判明した。


「食事や剣は右で対応しますが、文字だけは左の方が楽です」


 この以前からの部分は、日本にいた頃だろう。


「日本語で書けそうか」


 他者にバレたり、万が一にも紛失して流出したりした際の懸念がある。日本語での記入を希望したのは、皇太子コルジリネだった。全員が隅に何か文字を書いて、大きく頷く。


 ちなみに、書いた文字は全員が揃えたように「正」だった。文字の試し書きというより、数えたときの記録のようだ。


「何が必要かしら」


 呟いたカレンデュラに、皆が出した案はすべて受け入れられた。日本での名前、住んでいた地域、死んだ時の年号と年齢、死因。これである程度、お互いの状況が把握できる。


「あっ! さっきの物語のタイトル、あれも欲しいです」


 ビオラが無邪気に付け加えた。クレチマスが口にしたタイトルを、ビオラは知らない。他の人が全員知っているのか、気になったのだ。


「わかった。では名前からか」


 漢字で書かれた名は、シオンやリッピアには読めない。続いて住んでいた地域、年齢、死んだと思われる年号……この世界へ転生したのか、転移か。


「転移と転生の違いって何ですか?」


「この世界で、突然記憶が戻ったり、成長した体で意識が芽生えた場合を転移。生まれ直したなら、転生にしましょう」


 ビオラの疑問に答えたのは、ティアレラだった。五人とも前世と思われる日本での記憶があるなら、この分類が適しているだろう。黙々と書き込み、最後に物語のタイトルを記す。この世界がどの物語だと思っていたか。


 書き終えた紙を並べ、皆で覗き込んだ。まったく違う内容が並ぶ。


 文字も個性的で、特にビオラの丸文字は読みづらかった。カレンデュラは意外にも下手で、ティアレラは繊細な文字を並べる。小さな文字でちまちまと記載したのはコルジリネ。最初は大きな文字で書き始めて、徐々に圧迫された竜頭蛇尾系はクレチマスだった。


「なんというか、個性的だな」


 コルジリネの独り言に、後ろで見ていたリッピアがぼそっと本質を言い当てた。


「皆様のおっしゃる、日本での癖でしょうか」


 なるほどと皆が納得する。日本にいた頃の性格や癖が出たのだろう。普段はこちらの世界に合わせていたが、日本語という特殊条件で過去の癖が強くなった。くねくねと踊るような丸文字の解読に苦戦し、カレンデュラは提案した。


「せっかく書いてもらったけれど、本人の口で発表した方が早そうよ」


 全員が素直に同意し、誰も反論しなかった。

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