第17話 雨と血のにおい 後編 その11

 突然のことに、春平は目を見開いた。


 筒から針が出て胸腺を刺した。


 激痛が走る。


 だが、驚いたのは、次の瞬間。


 背を覆っていた気持ち悪さなどが一気に消えた。


 それどころか、なぜか清々しい気分になる。


 常々あった、節々の痛みもない。


「お茶でも飲もう……説明するよ」


 春平を抱きかかえたまま、権之助は言った。



 酒臭い中に緑茶の匂いがする。


 清々しくも芯のある匂いだ。


 春平と権之助は、湯気の出ている茶をすする。


「……俺は、あとどれぐらい、生きられる? 俺の胸に打ったものは何だ?」


 愛用の湯飲みから口を外して春平は友に問う。


 来客用の湯呑を飲み干して友の問いに権之助が答える。


「一つ一つ説明しよう……まず、君の病気……気が付いていると思うが、癌だ。それも、全身に広がって、手の施しようがない……進行性の癌で未知の部分がある……」


「……」


 春平は黙って二口目を飲む。


「昨日まで、徹夜で大学の専門の研究室で作ったのが何とか進行を遅らせ、無痛にさせる新薬だ」


 そう言って権之助はポケットから何個かのカプセル状の注射器を出した。


「……厚生省などに出してない、無認可の代物だ」


 カプセルは十個ほどある。


「結構あるな……」


「だが……今のお前の様子やデータを鑑みて、これでも上手くいって三か月、下手すりゃ一か月しか持たない……春平、お前さんはかなり特殊な抗体を持っている。その抗体が薬剤を認識すれば、癌細胞は逆に増大する」


「そうか……」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る