第16話 雨と血のにおい 後編 その10

 今度、秋水の視力に合わせたレンズに入れ替えることが決まり、何故か、その後、飲み会になった。


 権之助の研究の話。


 正行での学校内での出来事。


 秋水の昔話。


 面白いことを言えば、酒も入っているからげらげら笑う。


 飲んで、適当に作ったつまみを食べて、また話す。


 げらげら笑う。


 だが、それを聞きながらも春平だけは静かに酒を飲んでいた。



「じゃあ、俺は明日も大学の授業があるし修行もあるからおやすみなさい」


 最初に正行が抜けた。


 次に抜けたのは秋水だ。


「俺も、明日ちょいと取引があるから先に寝るわ」



 雨は静かになった。


 心地よい音を聞きながら、老人二人は眠った二人を起こさないようにぽつり、ぽつり、昔話を語った。



 権之助が目を開けた。


 いや、最初に覚醒したのは耳だった。


 誰かが嘔吐している。


 縁側に出る。


 普段なら、その先に街と海が見えるが今は雨戸で閉じられて薄暗い。


 突き当りには、確か便所がある。


 そこから、何か出てきた。


 科学至上主義の権之助すら、一瞬、幽霊かと思うほど青白い人間が出来てた。


「……春平?」


 よく見ると、親友だったことに権之助は驚き、駆け寄った。


 嘔吐物のにおいがする。


「来たのは正解だったな……」


 そういうと、権之助はポケットから小さいな楕円の筒のようなものを出した。


 そして、躊躇なく春平の胸へ突き刺した。

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