第13話 雨と血のにおい 後編 その7

 友人に半ば言われるがまま、春平は隣の書斎兼自室へ移動した。



 元々は書院造で数代前には茶室でもあり、江戸時代では身分を問わず星ノ宮藩の民を受け入れ、色々な話をしたと言われている。


 例えば、藩主が来たら礼儀作法に則り丁寧に茶を点てて藩の政治から日本という当時では珍しい『国』としての未来までを語り合った。


 逆に字も読めない農民たちを招いたときは胡坐をかいて上座も下座もなく雑談や困りごとを聞いて、最後は酒まで出して晩まで騒いだ。



 それが今や、ほぼ本や新聞、スクラップなどで乱雑になっている。


 アマチュアながら考古学者である春平は、興味のある記述や本を集め、日々、勉強している。


 化石などが出れば現場に行って写真を撮ったり、持ってきた柄付き金ブラシなどで調べる。


 結果、息子の秋水を叱れないほど、部屋が乱雑になった。


 本人的には「本人の分かる位置にあるのが一番いい」というが、孫の正行は「掃除、手伝うからしなよ」と小言を言う。


 一応、ソファーベットと文机の周囲だけは比較的守られているが、ほぼ足の踏み場もない。


 それを慣れた足取りで春平は最奥の文机までたどり着き、引き出しを開けた。


 そこには、陶器の欠片やら文庫本やら未発表の研究資料やらがあるが、一番手前に眼鏡ケースがあった。


 

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