第12話 雨と血のにおい 後編 その6
沖場権之助の言葉に、春平と正行は爆笑した。
「こ……この筋肉馬鹿が……」
「親父が……め……眼鏡……」
ひーひー言いながら笑い終えたのは優に三分を過ぎた。
『娯楽』『エンターテイメント』と呼ばれる虐めや暴力に、ほぼ背を向け、武道に励んでいた二人が腹を抱えて声をあげて笑った。
本人である秋水は、引きつった笑いをしている。
だが、権之助はいたって真面目に言う。
「まあ、一回、コンタクトレンズにしようとは考えたんだけど、秋水君って動き回るから取れる心配がある。あと、これは遺伝だと思うんだけど結構ドライアイなんだよね。試薬や目薬をすぐに吸収しちゃうのさ」
「え? 親父の瞬きってドライアイのせいなんですか? 俺、てっきり可愛い子ぶっているだけかと思った」
「好き勝手に言いやがって……正行、明日、俺の修行に付き合え」
父の言葉は怒りがこもっていた。
「それで、『眼鏡』という案が出たんだ。でもさぁ、秋水君は規格外に大きいから……」
権之助は立ち上がり、自分がかけていた眼鏡を秋水に掛けた。
爆笑、再び。
まるで、大人に子供用の眼鏡をかけたようで不釣り合いだ。
「オーダーメイドって手もあるんだが、秋水君の頭の形状は少し特殊でね……そこで白羽の矢を放ったのが、君だ」
指をさされたのは春平だ。
「俺?」
友人に指をさされ、春平は驚いた。
「遺伝的にも、あと、前に撮った頭部のレントゲン写真を見ても似ているんだよ。持っているんだろ、オーダーメイドの眼鏡」
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