第11話 雨と血のにおい 後編 その5

 玄関から直に土間兼台所に入ったときには、雨粒は肉眼でも見えるぐらいに大きくなってきた。



「ひぃ、セーフセーフ……」


 普段は野菜を洗ったりする水道で手を洗いつつ、正行は安堵する。


 と、土間から聞き慣れない電子音がする。


 土間からL字に繋がっている居間では、二人の男がテレビゲームに興じていた。


 一人は大男で、大きさに違わぬ大きい手からすれば小さなコントローラのボタンが的確に押され画面の中のキャラクターが巨大な炎を出したり、手足を伸ばす。


 もう一人は、頭頂部は禿げてはいるが周囲の毛は生き残っているようだ。

 

 彼もまた、皺々の手ながら機敏に動かして画面の中のキャラクターが的確に動く。


「親父、帰ってきたの?」


「おう、正行。おかえりぃ」


 振り返った大男は片手を上げた。


 どうやら、一セット勝負がついたようだ。


「さすが、秋水君。ゲームが上手だね」


 隣にいた老人が感嘆たる声を上げる。


「将棋とか囲碁なら負けるけど、テレビゲームでは負けません」


 胸を張る、正行の父親。



 平野平秋水。


 正行の父にして春平の息子である。



「で、さ。どうだった、老眼の進行は?」


 靴を脱いで、正行は居間に上がる。


「普通か、やや上々……さすが、道場主。動体視力自体はかなりいい。問題は、近くのものを見るときに若干の修正を無意識のうちで……たぶん、経験と勘でやっている……まあ、日常生活で書類とかを見るのなら眼鏡を買うべきだね」


 パンツにブラウス姿の老人が告げた。



 沖場権之助。


 春平の大学からの同期であり、現在、地元の総合病院で医院長をしている。


 通称『万物博士』


 根っからの研究者気質で興味を持ったものは徹底的に調べる。


 最近、ようやく、地球の裏側から帰って来て定住し始めたばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る