第9話 雨と血のにおい 後編 その3

 春平も墓石に両手を合わせて少し黙とうした。


 

 その後、近くに止めたナディアに二人で向かった。

 

 道具類をバケツに入れて、後部座席に置き、正行は運転席へ、春平は助手席に座りシートベルトを締めた。


 正行は、エンジンを始動させ、ゆっくり行動へ出た。


 程よい速度で田んぼや民家が後ろへ飛ぶ。


 田植えをし終えたばかりで青々とした苗がある。


 それらは、やがて秋には大きく成長し、首を垂れ、美味い新米になる。


--それまで、俺は生きていられるかな?


 車窓を見ていた春平は、そんなことを考えた。


「じいちゃん、どうしたの?」


「うん?」


 いつの間にか、車は赤信号で止まり、正行が心配そうに春平の顔を見ていた。


「……新しい木刀にお前さんが慣れるまで、どういう鍛錬を指せるか考えていた……」


「そうなの? なんか、思いつめた顔をしていたからさ……気になった」


 信号機が青になり、正行は再び前を見た。


 それから、こんなことを言った。


「おじいちゃんにとって、あのお墓で眠る人はとても大切な友人だったんだね」


「どうかな?」


 春平は苦笑した。



 自分は確かに『友人』だと思っていた。


 でも、相手も同じ気持ちかどうかは結局最後まで分からなかったし、清廉潔白を信条としていた人間だったから、自分に事を疎ましく思っているかもしれない。



「でもさ、あんなにボロボロだったお墓を掃除してあげたんだよ。嬉しかったと思うけどな」


 孫の素直な言葉に祖父は軽く頷いた。


「そうだな……そうかも知れないな」

 

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