第6話 雨と血のにおい 前編 その6
脱衣所であらかじめ用意したタオルで髪の毛と体を拭いて脱ぎ捨てた着流しと同じ柄のものを身に着ける。
すでに雨は止み、庭の虫たちが鳴き始めた。
居間に戻り、少し驚いた。
正行の寝相が酷い。
掛布団を蹴っ飛ばし、文字通り大の字で寝ている。
寝相、寝がえりは重力で溜まる血液や体液を他に回すための本能行動でもあるけど、孫の元気の良さに春平は微笑みながら布団をかけてやり、隣の布団に入る。
そんなに長い時間ではないのである程度、温もりはあるが少し冷めている。
久々に人を斬り殺したせいか、上手く眠れない。
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そんなことを思う。
戦争中は、それこそも文字通り疲れ果てるまで、敵の首や胴体を斬っていた。
最初は無感情、そのうち興奮してきて、虚しくなって、疲れて寝る。
昔のことを思い出していると、何かが胸にぶつかった。
「ん?」
場所を見ると正行が自分の布団に入り込んできた。
「おじいちゃん」
声が虚ろで、目も溶けそうに、かろうじて開いている。
夢と現実の狭間にいるのだろう。
「どうした?」
優しく問う。
祖父の問いに孫がにんまり笑った。
「雨のにおいがするねぇ」
--雨のにおい?
血や泥のにおいなら分かる。
石鹸では落としきれなかったのかもしれない。
「そうかい? 書斎で調べ物をしていたんだけど……」
嘘を言う。
「でも、いいにおい……」
そのまま、正行は眠った。
思わず抱きしめ思う。
『温いなぁ……』
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