第5話 雨と血のにおい 前編 その5

 死体を処理して、日本刀は明日丁寧に拭うとして懐紙でさっと拭き二階の物置へ隠す。


 一息ついて台所の隣にある脱衣所で着流しなどを脱いで全裸になると風呂場の残り湯で体を頭から足の先まで丹念に石鹸などで洗う。


 全部の泡を手桶のお湯で落として、湯船に入る。


 孫と一緒に入ったが湯はまだ十二分にあった。


 少し温めなのがいい。



 不意に死んだ友人のことを思い出した。


 そもそもにおいて、向こうが友人と思っていたかどうかも分からない。


 最初のうちは、普通の友達だった。


 ところが、自分の家系が暗殺をする一族だと知ると、あからさまに嫌な顔をした。


--まあ、それが普通だよなぁ


 当時の春平は、それを当然に受け入れた。


 学生時代、近寄ってくる者もいれば、離れていく者もいた。


 でも、正体を知るのは、今現在ではだいぶ限られている。


 殺された友人は、いつの間にかマスコミで『ご意見番』などと言われていた。


 俗にいう左翼論者で『暴力反対』『自衛隊は違憲だ』と叫んでいた。



 春平は一度だけ彼に電話を掛けた。


『自分の正体を世にさらすのか?』


 もしも、そうなら、殺さなければならない。


 意外にも彼に答えは違った。


「君は、虐められていた僕を庇ってくれた。そこいら辺の暴力馬鹿とは違うから、この世界が平和になったときにつるし上げる」


 その言葉に爆笑したのを覚えている。

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