第4話 雨と血のにおい 前編 その4

 いよいよ、雨粒が体で感じるか、感じないかぐらいになったとき。


 そう、それは手柄や金目当てで襲ってきたものを春平が殺すまで、ほんの片手で数えるほどの時間。


 彼らは地に這い物言わぬ死体になっていた。


 刀も着流しもほぼ血が付いてない。


 抜刀したまま春平は道場の裏手に足を運んだ。


 暗闇の中に怯えた目が二つ光っていた。


 他の者とは違う。


 いかにも学者風な優男だ。


「ひ……人殺し」


 優男は怯えた声で小さく春平を見た。


 だが、春平はその言葉に苦笑した。


「ああ、人殺しだよ。それが本職だ……でもなぁ、お前さんの売春斡旋を取材していた記者を殺すことはなかったろう?」


 優男から血の気が引いた。


「知って……いるのか?」


「この星ノ宮って場所は善も悪も綺麗も汚れも全部飲み込む街さ……そんなん日常的な話だ」


 こともなげに春平は言った。


「だがな、俺の友人ダチを殺すことはなかったはずだ……」


 声が低くなり、呪詛のように響いた。


 優男は土下座した。


「すまない! あれは怒りの勢いで……警察に自首する! だから……」


 その手には隠しナイフがあった。


 気が緩んだ瞬間を狙った。


 そんな安直な手は春平には通じない。


「お前、その言葉を言った人間を何人殺した?」


 冷酷に告げた。


 首が飛んだ。

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