第2話 雨と血のにおい 前編 その2

 春平は着流しのまま、外に出た。


 

 家は武家屋敷で大正時代に二階建てに改築して、あとは基本そのままだ。


 無論、ガスや電気などを通しているが県の重要指定文化財になっていて、時々、電話で予約した見学者がやってくる。


 ほかにも道場を併設していて、これは江戸時代中期から変わらない。


 上座も下座も神棚さえなく、隣に掃除用具などを入れる物置がある。


 道場の横には、何代前の当主が植えた分からない春平の背と同じほどの桜がほとんど花弁を地に落としていた。


 雨は、どんどん弱くなり、故糠雨になっている。



「おい、さっきから気配が騒々しい……隠れてないで出てこい!」


 春平は誰もいないはずの庭に声をかけた。


 すると、黒い影がぞろぞろ出てきた。


 街の不良みたいなものから明らかに極道のものまで、手には金属バットやら匕首ドスやら剣呑なものばかり持っている。


 対して春平も無手ではない。


 その腰には、家宝の短刀『渓水さわのみず』、太刀『神成かみなり』が差されている。


「命が惜しくば、この場から去れ……って言っても言うこと聞かねぇだろうなぁ」


 そう独り言ちると、敵方に向かい、にんまりと笑った。


「しかし、お前ら。かわいいな」


 何人かは、その不気味な笑みに気後れした。


「風呂に入ったり、飯を食っているときに襲おうとは考えなかったのかね?」


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