もしも、最後に願いが叶うのなら(改訂版)
隅田 天美
第1話 雨と血のにおい 前編 その1
二十畳以上ある部屋に布団が二組だけ敷かれている。
普段は中央に大きな卓があり、家族、週末に来る弟子や来客のためのお茶やご飯を出す場所だが、今は端に避けられている。
薄暗い部屋に祖父と孫がお互い、布団に入り何かを話していた。
「それでね……あのね……」
孫は眠いのか頭をふらふらさせながら物語を語った。
平野平正行。
当時小学校一年生になったばかり。
父親から祖父の家に引き取られ、慣れない環境ではあったが周囲の大人や子供たちは優しく迎え入れた。
それでも、小学校入学、東京から田舎への暮らしで疲れるのだろう。
もうすぐ、六月の梅雨である。
子供でも疲れる時期だ。
見えない絵本ごっこで桃太郎と金太郎と浦島太郎がシンデレラ姫を助けるために鬼ヶ島へ渡ろうとしていたが、祖父は、栞を置くふりをした。
「正行、面白い話をありがとう。今日は、もう、寝なさい……」
祖父はそう言って、孫の頭を軽く撫でた。
「……でも……」
「続きは明日聞くよ」
その言葉に正行は安心したように目を閉じた。
「おやすみ……」
最後まで言えず、正行は静かに寝息を立て始めた。
毎日、一生懸命学び、遊び、食べて……
--夢の中でもいっぱい遊んでおいで
祖父、春平は静かに立ち上がった。
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