第5話 反撃の嚆矢
聖暦2024年9月15日 ミステリア連邦ミスル州より西に900キロメートル マジュリア共和国東部上空
ミステリア連邦より遥か西の空を、数十機の軍用機が駆ける。F-10〈ファルコン〉戦闘機の編隊12機を先頭に立て、A-7〈トルネード〉攻撃機が6機、B-3〈ウシュムガル〉戦略爆撃機の編隊6機とE-6〈ベンヌ〉早期警戒管制機が1機続く、計25機の大編隊。向かう先はフランキシア軍の占領する飛行場だった。
攻撃に際し、〈ベンヌ〉が数機戦場に展開し、レーダーに対して電波妨害を実施。地上でも特殊部隊がレーダーサイトに対して破壊工作を仕掛け、連邦軍の大胆な反撃を支えていた。
『〈スカイウォーカー〉よりホルス及びバルチャー各機、これより電子攻撃を開始する。ホルス隊は制空権を確保し、バルチャー隊の対地攻撃を支援せよ』
〈ベンヌ〉管制官からの指示が下り、12機の〈ファルコン〉は4機ずつ分散し、三か所ある攻撃地点へ展開。レーダーで捉えた哨戒機を捕捉し、攻撃を開始する。
『ホルス1、フォックス2』
引き金を引き、空対空ミサイルを発射。敵はそれに気付いた様だが、回避行動に移るまでに一瞬の遅れが致命傷となった。数十秒後、ミサイルを被弾した機は黒煙を引きながら墜ちていき、同時に〈トルネード〉攻撃機が地上の対空警戒レーダーに向けて対レーダーミサイルを発射。対空砲が盛んに砲撃を撃ち上げる中、ミサイルは対空警戒レーダーを吹き飛ばし、〈ウシュムガル〉の編隊はそのまま戦闘空域へ身を乗り出す。
『バルチャー隊、攻撃開始!』
命令一過、胴体下部の兵器倉が開かれ、空対地ミサイルを複数発投下。空中でターボジェットエンジンを起動させて飛翔し始めるミサイルを見送り、急上昇する。飛行場ではすでに警報が鳴り響き、対空砲が必死に防空戦闘を始めていたが、ミサイルの驟雨は瞬く間に滑走路に幾つもの火柱を立てていた。
『くそ、哨戒機は何をしていた!』
『飛行場が破壊されるぞ、爆撃機は急いでハンガーに入れろ!』
地上にて管制員達が騒ぎ立つ中、〈ファルコン〉数機が降下。一斉に機銃を撃ちまくり、地上で破壊していく。さらにそこに〈ウシュムガル〉の空対地ミサイル第二波が降りかかり、さらなる爆炎が飛行場を包んでいく。
『攻撃は大成功だ、これでしばらく連中はミステリア本土に手出しできなくなるだろう』
〈ベンヌ〉管制官がそう言う中、ホルス1のパイロットは静かに眼下の光景を見つめる。今回、ホルス隊は半数の戦力で作戦を遂行しており、残る半数はFEIで唯一陥落を免れているコグリア民国の飛行場に展開途中であり、しかし次の作戦にて活躍してくれる事だろう。
・・・
『基地より入電、ミステリア空軍は上手くやってくれたそうだ。こちらも攻撃が成功した』
マジュリアよりも北の空を飛ぶ早期警戒管制機より報告が届き、リトヴァクは〈アリヨール〉のコックピット内で小さく頷く。
『さて、次は我らの仕事だ。攻撃開始!』
隊長の命令一過、目前のヘッドアップディスプレイ(HUD)に目線を移す。そして複数のアイコンが投影されると同時に引き金を引いた。
「スニェーク8、
主翼下より2発の空対空ミサイルが発射され、計16発が敵機へと向かう。ほぼ同時に警告が鳴り響き、リトヴァクは操縦桿を引きつつ別のスイッチを押す。機体が腹を見せる様にひっくり返る中、機尾のテイルブームよりフレアとチャフが撒かれ、リトヴァク機は僚機とともに急旋回。相手の放ったミサイルを避ける。相手も同様のリアクションを取っていたが、こちらの放ったミサイルはそれ自体にレーダーを備え持つフルアクティブホーミング方式であり、チャフとフレアを撒くのも遅すぎた。
『敵機、3機撃墜!残りは5機!』
『スニェーク各機、格闘戦に持ち込め!』
隊長からの指示が入り、リトヴァクは敵機を睨みながら操縦桿を倒す。〈アリヨール〉はミステリアの要撃戦闘機である〈イーグル〉も仮想敵に含めて設計されており、機動力は非常に高い。相手の戦闘機も同様に旋回性能は高かったが、主翼と尾翼、そしてカナードの三つの翼で風を手繰る〈アリヨール〉の敵ではなかった。
『くそ、曲がりやがる!』
『スラビアの流れ者め…!』
「―食らえ」
無線に相手の怨嗟が紛れ込む中、引き金を引き、30ミリ機関砲を発射。たった2秒で敵戦闘機の尾翼が吹き飛び、黒煙を噴きながら墜ちていく。数分後、真下の空を無数のミサイルが通過し、遠い地にて砲火が瞬く。流石に相手も地対空ミサイルや対空砲などで対処するだろうが、飽和攻撃の前には一たまりもないだろう。
『着弾を確認。これで敵飛行場は文字通り吹き飛んだ。再建しようにも数か月はかかるだろう』
『了解した。全機、帰投する。スニェーク8、良くやった。今回の戦闘で君はエースパイロットの仲間入りを果たす事となるだろう。帰投を完了したらレストランで祝勝会を開く』
隊長がそう言葉を投げかけ、無線に茶化しの言葉が響く。リトヴァクはそれを気にする様子もなく、真正面を見据えた。
この日、ヴォストキア軍とミステリア軍はフランキシア軍の占領していた飛行場を同時に襲撃し、破壊。本土近くの防空網から敵航空戦力を遠ざける事に成功した。それに合わせて地上でも、FEI連合軍が反攻作戦を開始し、制空権を分捕られたフランキシア軍に対して復讐を目論んだが、流石に相手も甘くはなく、反撃を食らう事となった。
・・・
チュリジア共和国 とある街
その夜も、私は街の中にあるダイナーで仕事をしていた。両親が戦争の最中に亡くなった後、私は街で小さな商店を開いている叔父の下に身を寄せていた。だが叔父は自身の兄である父との仲が悪く、私は正直居心地が悪かった。
そのため、午後になると私はダイナーへ足を運び、特技であるハーモニカの演奏をする事で、いじわるな駐留兵からチップの施しを受けていた。叔父は私の『小遣い稼ぎ』とフランキシア軍に媚びを売るダイナーの店主に愚痴を叩きながら、しかし私の『日課』を咎める事はしなかった。
実のところ叔父の店は物資配給制の影響で自由にモノを売る事が難しくなり、お得意の仕入先もフランキシア軍の爆撃やら『亜人狩り』で潰れてしまったために商売が難しくなってしまったのである。
そうしていつも通り、ハーモニカを吹いていると、陽気な一団が軍用車に乗ってやってきて、陰気な陸軍兵士達を追い出していく。常連となっている陸軍士官の一人はタバコを燻らしながら言った。
「おや、我らが空軍のエース達のお出ましだ」
彼らは、戦争序盤の攻勢で活躍した第88戦闘航空連隊の戦闘機パイロット達だった。連隊付き士官が壁にパイロットの名前とスコアを表す飛行機の絵を描いていき、撃墜数が5機に達した者は仲間達から酒と称賛の言葉と、やっかみを吹っかけられた。
「そして我らが英雄、『赤の1』…ファルマン少佐の撃墜数!総数で51機!」
その言葉と共に、多くが店の奥に目線を向ける。そこでは一人の若い男性が、女性士官に見つめられながらギターを弾いていた。
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