第4話 ヴォストキア
聖暦2024年9月15日 ヴォストキア人民共和国 首都ユークストク
イスティシア大陸の北東、ミステリア列島と北極海に面した地域は聖暦1500年代より東のスラビア大陸と交流が行われてきた場所であり、聖暦1900年代の大陸全体を巻き込んだ動乱の時代には、スラビア大陸の覇者である『大スラビア帝国』が複数回干渉してきていた。
そのスラビアからやってきた移民が中心となって成立したのが、『ヴォストキア人民共和国』である。70年前の戦争にて勢力圏を確定させたこの国は、長い冷戦の間にスラビアから軍事支援を受け、軍事力を増強。『星の雨』では独自に地下シェルターを建設し、隕石被害に対応していた。
その首都、ミステリア海に面した位置にあるユークストクの人民評議会議事堂にて、アレクサンドル・コンドラチェフ評議会議長は十数の部下達を会議室に集めていた。
「同志諸君、フランキシアは愚かな選択を取った。同じ共和政治を採用する我が国をも敵と認定し、戦争を仕掛けてきたのは周知の通りだが、彼らはさらに愚行を重ねてきた」
コンドラチェフの言葉に、多くの官僚が険しい形相を浮かべる。去る9月13日、フランキシア軍は占領した飛行場を起点に、ミステリア西部のみならずヴォストキア南部にも空襲を実施。空軍の奮闘により侵入してきた爆撃機の半数近くは撃墜出来たが、死者1万人の被害は大きく、世論は怒りに湧いていた。
「かつて『星の雨』の時、我が国はフランキシアが抱える筈だった難民の1割を新たな同胞として迎え入れ、戦後復興に際して多くの支援を行った。彼の国はその恩に対して仇を返してきたのだ。これは決して許されざる行為だ」
直後、人民軍参謀総長のワシーリー・コーネフ上級大将が立ち上がり、説明を始める。
「同志コンドラチェフ、我が軍は既に反攻作戦の準備を進めております。ミステリアが打ち上げた人工衛星による観測によれば、敵軍は接収した飛行場に爆撃機を集結させているそうです。よって再度の爆撃を防ぎつつ敵軍の制空権を揺るがすべく、強襲作戦を計画しております」
「強襲作戦か…ミステリアとの連携作戦を行う日が来ようとはな…だがこの際イデオロギーで揉めている暇はない。参謀総長、当面の防衛計画は任せる」
・・・
聖暦2024年9月15日 ヴォストキア人民共和国南西部 ヴェスナグラード郊外 人民空軍ヴェスナグラード飛行場
ヴォストキアの南西部、工業都市ヴェスナグラードの郊外にある空軍飛行場。その会議室に数十人の将兵が集められていた。
「総員、傾注せよ。これより作戦会議を始める。先の大規模空爆に対する報復と国境地帯の制空権奪取を目的として、参謀本部は我が第2航空師団に対して飛行場爆撃作戦を命じられた」
第2航空師団第32戦闘航空連隊の指揮官であるマレンコフ大佐はそう言いつつ、ボードにプロジェクターの映像を投影。地図に指揮棒を指しながら説明する。
「目標はラオヘ共和国内のラオヤン飛行場。ここには現在、40機超の爆撃機が集結中であり、その他にも三つの飛行場に戦力を結集させている。それ以外は第7航空師団と戦略爆撃師団が対応する事になるが、特にラオヤン飛行場は官民共用型の空港でもあるため、民間機用スペースも流用して多くの戦力を集められる。これを徹底的に破壊し、再度の爆撃を阻止するぞ」
『了解!』
一同は敬礼し、会議は終わる。そしてハンガーへと向かい始める中、マレンコフは一人の女性士官に話しかける。その士官は銀色の髪をショートカットの形に纏めており、目つきは鋭く見えた。
「リトヴァク少尉、すまんな。士官学校からいきなり実戦部隊に来たばかりだというのに…」
「いえ、私はその事に関して左程気にしておりません。軍の道を選んだ以上、そういう事態が起きるのも覚悟しておりましたので」
「そうか…油断するなよ」
リトヴァクは頷き返し、ハンガーへと向かう。この基地に配備されているVa-11M〈アリヨール〉戦闘機は、スラビア空軍の主力戦闘機を
リトヴァクの乗り込んだ機体は滑走路へと移動し、2基のターボファンエンジンは唸りを高めていく。その尾翼には白い薔薇のマーク。
『スニェーク8より管制塔、離陸する』
『管制塔、了解した』
応答を行い、機体は1500メートルを走る。そして主翼に揚力を受けて舞い上がり、味方機と合流。進路を南西へ取り始めた。
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