第3話 フランキシア

聖暦2024年9月14日 フランキシア共和国 首都パロベポリス


 イスティシア大陸の西半分を占める大国、フランキシア。1000年前に魔王を倒した英雄が建国したとされるこの国は、100年以上前に起きた市民革命を経て共和制へ移行。その際大東洋を挟んだ先にある大国ベルキア帝国からの懲罰にも似た侵攻を受けたものの、それを跳ね除けて共和政治を守った事に対する自負は高く、革命を主導したヒト族を頂点とした社会を築き上げていた。


 その首都、フランキシア民族の崇敬する女神の名を冠したパロベポリスの革命記念広場にて、一人の女性が何万もの群衆を相手に弁舌を奮う。


「国民の皆さん、我が国は長き歴史を誇る大国です。100年前の『大東洋戦争』にて偉大なる先人たちは、ベルキアの高慢なる者どもの侵略を跳ね除け、この国に大いなる力をもたらしました。そして我が国は建国以来の宿願であるイスティシア大陸の統一という偉業を成そうとしております」


 女性の言葉に、いたるところから『その通りだ』との声が上がる。開戦から2週間、共和国軍は破竹の進撃を続け、目下の脅威であった東イスティシア連合FEIの連合軍を大陸の東の端まで追い詰めていた。このままのペースで攻める事が出来れば、大陸統一の日も近い事だろう。


「残る対立者は、ミステリアの時代遅れの専制主義者と、ヴォストキアの余所者のみです。必ずや、この美しき大陸を我ら素晴らしきフランキシア民族の手で統一致しましょう」


『うぉぉぉぉぉ!!!』


『レーミア、レーミア、レーミア!!!』


 その言葉に、歓声が上がる。そうして女性の名を連呼する声が響く中、参加者の一人である議員は呟く。


「やれやれ…我らがルーゲウス議員は今日も大人気だ。こうして民衆を煽てていれば自然と支持率に伸ばせるのだから」


「ですが、今の我が国にとって必要なマスコットでもあります。我が国には『FEIの無責任に対する復讐』という大義名分があります。肝要なのはそれをどうアピールするのかですから」


 議員に対して、将校の一人がそう答える。『星の雨』の後、フランキシアは隕石による被害で経済が混乱。そこへFEIの国々が自国領内で多数生じた難民を押しつけてきたのだ。


 高い治癒能力を持つエルフや、頑丈な肉体を持つドワーフやオークと違い、ヒト族の身体は脆い。そして難民の多くは魔法で最低限のリカバリーをする事の出来ないヒト族であった。難民問題が種族差別の問題に発展するのは自明であり、フランキシアは30年に及ぶ恨みを晴らさんとしていた。


「しかし、ミステリアのみならともかく、ヴォストキアまでも敵に回すのは不味くないか?我が国の軍事力は戦前のFEI軍と同等、それを『王冠』でカバーしたはいいが、敵を増やしすぎな気が…」


「どのみち争う相手です、この機に両国を叩き潰すつもりなのですよ、上は…」


 将校はそう言いながら、演説で喝采を浴びる女性議員を見つめるのだった。


・・・


パロベポリス郊外 空軍飛行場


 パロベポリスの防空を担う空軍飛行場に、2機の戦闘機が降り立つ。滑走路からハンガーへと移動し、静止した瞬間、十数人の整備士達が駆け寄る。キャノピーを開け、傍に梯子を用意してもらったパイロットが降り立つと、その目前に一人の女性が現れる。


「久しぶりですね、少佐」


「…ルミアか。姉君も随分と張り切っている様だな」


「少佐はこれから、『東』へまた赴くのですね」


「ああ…『王冠』を制圧した以上、FEI軍の主力は迂闊に反撃を仕掛ける事など出来ないからな。だが調子に乗ってミステリアに大規模攻撃を仕掛けた戦略爆撃軍団が赤っ恥をかいたばかりだ、俺達はその尻拭いに赴かなければならない」


 少佐はそう言いながら、自身の愛機を撫でた。

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