第6話 迫る大軍

聖暦2024年9月20日 大陸南東部エツナン王国 港湾都市ハノー


 エツナン王国北東にある港湾都市ハノーは、戦前より大陸南部海域航路における要所として知られる場所だった。その港には今、数十隻の大艦隊が錨を降ろしていた。


「艦長、見たまえ。壮観な光景だと思わんかね?」


 艦隊の中央にある航空母艦「カルネウス」の艦橋にて、艦隊司令官のマルキウス提督は艦長のマティウス・トラス大佐に向けて話しかける。カルネウス級航空母艦のネームシップである本艦は、イスティシア大陸統一のために編制された南洋艦隊の旗艦であり、基準排水量48000トンの巨体に40機程度の艦載機を搭載する事が出来る。その規模は空軍の1個戦闘飛行連隊に相当し、同じ艦隊に属する同型艦の「トロジュース」と共にこの艦隊の制空権を担っていた。


 南洋艦隊を構成するのは2隻の航空母艦のみならず、4隻のミサイル巡洋艦に4隻のミサイル駆逐艦、2隻のヘリコプター巡洋艦に8隻の駆逐艦、4隻の潜水艦に4隻の補給艦の総数28隻。これがあと三つもあるのだ、先ず真正面からの海戦では負ける事はないだろう。


「はっ、提督。我らが南洋艦隊は精鋭無比の大艦隊であり、我らに並ぶ敵は無いと存じております。此度の戦争にて我が海軍は敵主力艦隊を真っ向から撃破し、勝利を収めてきました。空軍の戦略航空軍団が失態を犯した今こそ、我が軍は明白な戦績を叩き出して目にものを見せてやる所存です」


「素晴らしい。残るはミステリアとヴォストキアの海軍戦力となるが、勝算はあるだろうな?」


 マルキウスの問いに、トラスの隣に立つ航空参謀のベアルス准将は鼻を鳴らす。


「ご安心を、提督。連中の数は多いですが、我が艦隊の戦力は非常に強力です。すでに潜水艦隊が先手を打っており、実際に相対する兵力は少ないでしょう」


「それに、我が艦隊に配備されたミサイルは全て最新型。本艦と「トロジュース」の艦載機も加えて、敵の対空戦闘能力を十二分に完封出来ましょう」


 トラスとベアルスの答えに対し、マルキウスは満足げな笑みを浮かべるのだった。


・・・


聖暦2024年9月21日 コグリア共和国ペルサン市 ペルサン飛行場


 ミステリア連邦の西にあるコグリア半島は、コグリア共和国の領土の大半を成す場所である。その南東部にある港湾都市ペルサンは、連邦空軍の前進拠点として利用されていた。


「これよりブリーフィングを始める。今度の作戦目標はナンスー民国へ侵攻を行っているフランキシア軍の攻撃と制空権奪還だ。ナンスー民国は既にフランキシア軍との戦闘で航空戦力の大半を喪失しており、フランキシア軍は絶対的な制空権の下で進撃を続けている」


 会議室にて、第6飛行隊を率いるクラウス・ベルトース中佐は飛行隊を構成する24名のパイロット達に向けて言う。FEI連合軍の避難先となっているコグリア共和国の兵力は、今後の反攻作戦のために温存されていた。


「我が軍の目的は、FEI連合軍の戦力再編までに敵の侵攻を遅らせ、彼らに十分な余裕を持たせる事にある。FEI連合軍の総戦力は人だけなら十分だが、我が国の下で教練を積み、当たらな装備を得なければならない」


 戦争序盤で首脳部と共にミステリアやヴォストキアに逃げ込んできた連合軍は、烏合の衆と言っても過言ではない。これを解決するべく、現在ミステリア本土及びヴォストキア本土にて部隊の再編と強化演習を実施している。練度と装備が完全に整うまで、


「すでにナンスーには1個陸軍機甲師団が進出している。これを蹴散らし、制空権を掌握しない限り、我が軍の未来はない。絶対に勝つぞ」


『了解!!!』

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