第1話 開幕の空襲
母は、元々この国の生まれではなかったという。母の故郷は大陸中部にある小さな国だった。母はその国の王女様で、何一つ不自由のない暮らしを送っていたという。
だが、29年前の『星の雨』が母の故郷を破壊した。歴史あるお城は隕石で吹き飛ばされ、祖父たる国王や多くの親類も命を散らした。母はたまたま城の外にいたから助かったものの、全てを失った後はミステリアに身を寄せるしかなかった。
大陸東方に位置する島国ミステリアは、200年前に幾つもの国々が集まってできた国で、今ではイスティシアでも有数の経済大国として名を知られていた。母は慣れない仕事で生計を立てつつも、役人の父と結婚して安定した暮らしを得る事に成功していた。
そして私は、母とは全く異なる道を歩む事となった。きっかけは連邦軍創立170周年記念軍事パレードで見た、曲芸飛行隊の曲芸飛行だった。空を自由に飛び回る空軍戦闘機の雄姿に見とれた私は、18歳の誕生日に連邦軍士官候補生学校の門戸を叩いた。
そして4年の薫陶の日々と空軍士官学校での1年近くにも渡る努力を経て、私は空軍第3航空団の実戦部隊、『ホルス』の名を背負う第6飛行隊に配属されたのだった。
・・・
聖暦2024年9月13日 ミステリア連邦西部 ミスル州アビドス郡ティニス郊外 連邦空軍ティニス基地
ミステリア連邦は八つの大きな島と、数千の小さな島々を国土とする島国である。うち西のクレア半島に面するミスル島は、連邦成立以前は70もの小国が入り乱れる紛争地帯であった。現在は幾つかの郡に統合され、イスティシア大陸より来る貨物や資源、観光客の玄関口として隆盛を極めている。
その中心たるアビドス州、主都ティニス郊外にある連邦空軍基地のブリーフィングルームに、数十人の将兵が集っていた。
「先程、同盟国のレーダーサイトより東方向に向けて接近する国籍不明機群の通報があった。現在連合軍は司令部を我が国に移してフランキシア共和国に対する対抗姿勢を示しており、恐らくこれに対する戦略的打撃を目論んでいるものと推察される」
戦争が始まって1年弱、フランキシアはイスティシア大陸の大半を占領し、抵抗勢力だった
「すでにフランキシアは我が国に対しても宣戦布告を発しており、武力による併合をも目論んでいる。よって我が国は武力による本意ではない統一を拒否し、独立主権を守るべく抵抗する必要がある。全機、直ちに出撃せよ!」
『了解!』
命令を受け、パイロット達はハンガーへと向かい、整備を完了させていた機体へ乗り込んでいく。そして滑走路へと移動していき、管制塔の指示を受けながら離陸していった。
『管制塔よりホルス13、離陸を許可する』
管制塔からの指示を受け、ジャンヌ・ド・ブルジア少尉は応じる。
「ホルス13、出ます」
彼女の乗るF-10A〈ファルコン〉戦闘機はアフターバーナーを焚きながら加速し、離陸。僚機と共に編隊を組みつつ、敵機へと向かい始める。重爆撃機の編隊は基地に向けて進んでおり、その数は膨大だった。護衛戦闘機もつけずに攻め込んでくる辺り、かなりの自信がある様に見えた。
「敵機は複数地域へ爆撃を試みる模様だ。編隊ごとに散開し、撃破していけ」
「了解」
即座に応じ、ジャンヌはレーダーで敵機を捕捉。ミサイルを放つ。相手はフレアやチャフを撒きながら、強引に基地上空へ張り付こうとするが、ミサイルによって主翼を吹き飛ばされ、墜落していく。
「1機ずつ撃ち落とせ。敵はまだまだいるからな」
隊長の指示を受けながら、飛行隊は敵爆撃機を撃ち落としていく。しかし数は一向に減る気配が無く、むしろ相手は攻勢を強めて行った。と直後、管制塔より悲痛の報告が入って来る。
『管制塔より各機、敵はミスル州北部全域に爆撃機をばらまいてきている!急げ、港や市街地も破壊されるぞ!』
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