KEI'S NIGHT KEI'S LIGHT

dede

IN SUMMER THE NIGHTS

夏は夜。月のころはさらなり。闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。

『枕草子』著:清少納言



ケイは飛行機の中で初めての風景を楽しむこともせず、母への恨み言を零していた。


(なーにが、『もう中学生になったんだから一人でも大丈夫よね?』よ!一人じゃ楽しくも何ともないっつーの!)


元々今回の家族旅行は両親と一緒に母方の祖父の家に1週間赴く予定だった。

それが父がまず仕事の都合で行けなくなり、次いで母も先週急な仕事が入ったと行けなくなった。

三人中二人が行けなくなったのだ、本来なら取りやめてもよさそうだがそこで母の一言である。

確かに、とケイは思った。私も中学になった。一人で飛行機に乗るぐらいならやってのけない事はない。

不安はあるが、言っても「空港に行く」「搭乗手続きをする」「飛行機に乗り込む」の3ステップだけだ。航空会社の案内を見れば手順は全て書いてある。それ通りに行動すればいいだけの事である。

あちらに着いたら空港にはじーちゃんが迎えに来てくれると言う。つまり一人で行動するのは家を出てアチラの空港に着くまでの間だけだ。

じーちゃんは毎年東京の私の家に遊びに来てくれてるので普通に仲は良い。会えるのは素直に嬉しい。

だけども。だけどもである。


(ママとパパと久しぶりに一緒にゆっくり過ごせると思って楽しみにしてたのに。なのにさ……)


ここ最近両親は仕事仕事と一緒に過ごす機会がなかった。夏休みに入ってからも二人の帰りは暗くなってからである。

忙しいのは分かる。私もいい加減大人だ。だから理解は示そう。しかし、随分前から計画を立てていた家族旅行は死守できなかったのかと声を大にして言いたい。

それでなくても観光地でもないただの山奥の田舎である。どう過ごせばいいかまったくプランが立たなかった。


祖母はケイが幼少の頃に他界している。そしてケイが祖父の家に訪れたのはその時が最後だった。

なので、これから赴く場所はケイにとってはほぼ初めての土地である。

知っている情報といえば母と祖父の話をかき集めた以下ぐらいのものである。


・山奥である(母が嘆いていた)

・周りは田んぼばかりである(ケイの祖父は農家だ)

・家の近くに泉が湧いており、夏は蛍が飛んでいる(と、母が自慢げに語っていた)

・同じ県に叔父家族が住んでいる(従妹は小学高学年の女の子らしいが会った事はない)


(どないせいっちゅーねん)


1人で行ってどう楽しめばいいか分からない。これならじーちゃんちに行くよりも家でゴロゴロしてた方がマシというものである。

正直行きたくない。蹴ってしまいたい。すごいゴネて取りやめにしたい。それでもケイが一人旅を了承したのは


「一人で行くなら、さすがにスマホを持たせないとダメか……」

「え?」

いや、ここまではまだゴネていた。スマホは欲しい。だが私の気持ちは収まらないんだぞ、と。ただ、更に母はこう畳みかけた。


「道中の旅費渡すけど、余りはお小遣いにしていいよ」

「行きますっ!!」

お金で解決だなんて、大人ってば汚い。フッ、でもそれに乗ってしまった私もすっかり大人だね☆


「おーい、ケイちゃん」

「おー、じーちゃん。一年ぶりー」

ケイは回っていたキャリーバッグを拾いシールをゴミ箱にポイして、ロビーに出るとそこには見慣れた祖父の姿があった。

祖父は下から上までケイの様子を観察する。厚底のサンダル、デニムっぽいワイドパンツに、ニットキャミの上から薄手のカーディガンを羽織っている。

その明らかに田舎では浮いている格好には触れず、祖父は感想を漏らす。

「また大きくなったなぁ。着くまで大変じゃなかったかい?」

「いやだなぁ、じーちゃん?私もう中学生だよ?飛行機乗るのなんて訳ないって」

ケイは空港内で迷子になった事も、搭乗券が見つからず10分ほど荷物を全部だして探した事も、金属探知機に引っかかって動揺した事も忘れて自信満々にそう答えた。

「そうかそうか。ケイちゃんも立派になったなぁ。さて、お昼はまだだよね、何食べたい?」

「寿司!焼肉!」

即答だった。

「あー、たぶん明日以降にどちらも食べるから別なのがいいかな」

明日以降に叔父家族も祖父の家に泊まることになっている。きっとその時食べるつもりなんだろう。

「んー、じゃあこの辺で有名な食べ物とかお店ってある?」

「特にないなぁ」

祖父は残念そうに答える。ケイはキャリーバッグをガラガラ引きずりながら少し迷う素振りを見せたがそれも一瞬で

「ん。なら、途中で最初に見つけたラーメン屋にしよう」

「そんな決め方でいいのかい?」

するとケイは苦笑いを浮かべる。

「だって私、この辺知らないし。それにこういうのも楽しいじゃん?」

自動ドアが開く。クーラーの効いていた空港から一歩外に出ると刺激的な日差しが待っていた。

思わず片手をあげて日差しを遮る。東京と同じでココでも変わらずセミは騒がしく鳴いていた。

点字ブロックでキャリーバッグをガタガタ言わせながら駐車場に向かう。

「乗って」

祖父が示したのは白い軽自動車だった。タイヤ周りは泥で汚れている。

後部座席にキャリーバッグを積むとケイは助手席に乗り込む。

「冷房効くまで窓は開けててな」

「うん」

エンジン音を唸らせると、振動と共に吹き出し口からはムワッとした熱い風が吹き始めた。

「しばらく熱いけど我慢してくれ、ケイ」

と、祖父は車を走らせる。

「いいよ、風も気持ちいいし」

とケイはひらひらと手を振るとニタリと笑った。

そして走る車の中でケイは母に『じーちゃんとちゃんと合流できたよ』とLINEを書き込むのだった。


「……ん。ごめん、じーちゃん。寝てた」

「いい、いい。色々あって疲れてたんだろ。でももうすぐ着くよ」

「え?」

途中の古びたラーメン屋でお昼を啜った後ウトウトしていたら、いつの間にかケイは寝入っていた。

流れゆく風景に目を向けると、建物は鳴りを潜め、曲がりくねった山道を車は走っていた。道の両脇は木々ばかりだ。

スマホを見る。だいたい寝てたのは1時間前後ぐらいだった。

「お昼を食べてすぐだけど、スーパーに寄っていくよ。夕飯の惣菜買うから」

「いつもはじーちゃん、ご飯どうしてるの?」

「んー、惣菜だったり、適当に作ったりだな」

「じーちゃん、料理できるの?」

「まあ、一人だしねぇ。惣菜で毎日済ますにはスーパーは遠いし」

「へぇー……スーパーまで車で何分?コンビニとかは?」

「30分ぐらいかなぁ。一番近いのはこれから行くスーパーだよ」

「そっかー。ちなみに得意料理は?」

「素麺」

「茹でるだけじゃん」

ケイはケタケタ笑う。けれどふいに真面目な顔をして

「栄養不足なっちゃうよ?ちゃんと野菜も食べてよね?」

「野菜炒めもよく作ってるから大丈夫大丈夫」

そうして、二人を乗せた軽自動車はだいぶ年季の入ったスーパーの駐車場に入っていくのだった。


スーパーに入ろうとしたら、不躾な目線がケイの肌を刺す。

目線の先に目を向けるとユニフォーム姿で坊主頭の男子中学生たちがアイス片手にケイに注目していた。

「なに?」

ケイがそう声を掛けると、慌てて男子中学生たちはそっぽを向く。食べかけのアイスが溶けてポタリと地面に染みを作った。

「はいはい」

祖父はケイの後頭部に手を置くとグイグイ押す。その力に逆らわず、ケイは素直に一緒にスーパーに入った。

入った途端、ケイは苛つきながら悪態をつく。

「何なのあいつ等?なんか私に文句あるの?」

「あー、ケイちゃん。たぶんあの子たちはケイちゃんが可愛くて見てただけだから、あんまり悪く言わないの」

すると途端に機嫌を直して祖父にケイは問いかける。

「え、じーちゃん。やっぱり私、可愛い?」

「うんうん、ケイちゃんは可愛いよ」

「そっかー。ニヒヒ、じゃあ、まあ許しちゃおう」

ケイは思った。私が可愛い事を私は知ってるけれど、やっぱり誰かにそう言って貰えるのは気分がいいなぁと。

「あ、じーちゃん。折角だしじーちゃんの手料理食べたい。一品作ってよ」

「そんな上手じゃないんだけどなぁ……ああ、ならケイちゃんも作ってよ」

「えぇ!?……いいよ?じゃあ、勝負だね!」

「いや、別に勝負じゃ……うん、でも楽しみにしてるよ。でも惣菜も選ぼうか?あ、何かジュースとか飲みたかったら選んで」

「んー?ジュース、ジュースかぁ」

結局ケイが迷った末に選んだのは無糖のアイスティーだった。


両手にエコバッグを抱えたケイはスーパーの自動ドアを抜ける。ふと思い出して顔を横に向けると、まだ男子中学生たちがいた。やっぱりまたケイを見ていた。

そんな彼らをケイは立ち止まって凝視する。そして、ニコリと満面の笑みで微笑み返した。そしてくるりと踵を返して祖父の後を追った。

「……ケイちゃん」

「ニシシシ♪サービスサービス」

ケイの背後には、顔を赤らめて胸を押さえてる男子が複数人いたとか、いないとか。



祖父の家に着いた。古風な感じの平屋だった。

「……涼しい」

日差しは同じハズなのに、森の中を通り過ぎてきた風は涼しかった。

「ケイちゃん、荷物運ぶよ?」

「大丈夫。自分でやるよ」

そういってケイはキャリーバッグを持ち上げて、うんしょうんしょと家まで運ぶ。

「お邪魔しまーす」

ケイは鼻をスンスンさせる。祖父と、線香と、あとは土の入り混じった複雑な匂い。知らない匂いだった。

先に家に入っていた祖父が「いらっしゃい」と答える。

「ケイちゃん、できればくつろぐ前におばーちゃんにも挨拶して貰っていいかな?きっと楽しみにしてたと思うんだ」

「はーい」

ケイは仏壇に手を合わせる。母から持たされていた東京ばな奈も供える。


「ふぅいー、ちかれた」

とはいえ時刻は昼下がり。まだまだ夜までは時間がある。

「ねえ、じーちゃん。なにか手伝うことある?」

祖父はしばし迷ったものの結局

「いやぁ。特にないかな。今はゆっくりしてたらいいよ」

祖父は気遣ってそう答えたのだろうが、ケイとしては間が持たないので聞いたのである。

これからどうしようかとケイは考えた末、

「ちょっと家の周り、探検してくるね」

「ああ、気を付けて行っておいで。日が暮れる前には帰ってくるんだよ」


ケイは庭に出る。広い。草が刈られたばかりのようで、キレイなものである。そしてまた結構な面積の畑。

ナスにキュウリにトマトが、変な形ながらも実ってる。詳しくないケイには食べ頃なのか判断つかなかったがともかく実ってる。

それに……これは、シソ?たぶん紫だからシソ。他にも草が何種類か生えていたが、畑に生えてるのだからたぶん食べれる草なんだろう。

とりあえず家の周りを一周してみる。台所の勝手口の傍は日陰になっていてコンポストをしているのだろう、生ごみの匂いが鼻を突いた。

一周回った。まだまだ探索が足りない。次に家の敷地から出てみる。

とはいえ、周りは木々ばかりである。かろうじて道はアスファルトだがところどころひび割れていて草が生えている。

とりあえず目の届く範囲に民家はない。ただ道と木々があるばかりである。

風は気持ちよく、絶えずセミとカエルが鳴いている。時々鳩だかフクロウだかの鳥らしき声がする。

……カエル?そういえば、母からは田んぼばかりだと聞いてたのに田んぼがない。

意識して耳に集中してみたら、せせらぎみたいな音も聞こえてきた、気もする。なんとなくこっちかなと思う方に足を向けると、見つけにくい所に小径があった。

砂利が敷き詰められただけの道で、両サイドから枝が伸び、屋根みたいになっている。おかげで道は薄暗い。

ケイはその小径を進んでいく。足元が踏みしめる度にジャリジャリ音を立てた。


それはまるで海。


風が吹くたびに緑の波を立てる。

絶えまなく続くそれは、波打ち際まで辿り着くと木々の葉と、ケイの髪を揺らした。

青臭くて、泥臭い、でもそれだけじゃない複雑な匂いが運ばれた。

幾つにも区切られた田んぼには水が張られていて、稲が青々と茂っている。

初めて間近で田んぼというものをみたケイは、不覚にも感動してしまった。

田んぼの畔を、ケイは草を踏みしめながら進んでいく。

「うへぇ!?」

なんか畔の草が濡れていた。サンダルだったので直接足が濡れる。

気持ち悪いなぁと思いながら、けれどもここまで来て引き返すという選択肢もないので我慢して進んでいく。

ケイが一歩進めるたびに草むらからバッタみたいな虫が飛び出していった。

しばらくすると、小川が流れていた。

そういえば、とケイは思い出す。確か、蛍のいる泉もあったハズ。という事は、この小川の上流か。今もいるかは知らないけれど。

ケイは気になったので、折角だしと小川を遡っていくことした。

しばらく歩くと、ケイは水源に至った。透明度の高い水がコンコンと奥底の砂を舞い上げている。

しかし、周囲を見渡しても蛍らしき虫がいない。そもそもケイは蛍の姿を知らないので結局光らないと分からないのだが。

何も見つけられなかったのでケイは些か落胆した。おまけにさっきから足がかゆい。見てみると、細かい切り傷もできていた。

そろそろ戻るかと、げんなりした気持ちで帰路についた。

「あ」

次の瞬間には足を滑らせて転んでいた。


ばしゃん。


「じーちゃーんー。お風呂借りてもイイ?」

「うぉ!?何だその恰好!?」

ケイの姿を見て、祖父は慌ててお風呂にお湯を溜める。

背中から行ったので、倒れた先に石など無くてよかったのだが。頭から泥だらけである。いや、もう乾いてきてる。ポロポロと土を落とすとちょっと気持ちいい。

「気に入ってたんだけどなぁ。服、ちゃんと泥落ちるかな」

「まさかその恰好で田んぼに行くとは……危ないから次からはちゃんとした恰好で行こうな?」

「危ない?」

「ほれ」

祖父は庭の一角を指差す。スポーツタオルサイズの蛇がくねくね横断していた。

「うへ」

「毒のあるのもいるからな、せめて行くなら長靴履いて、な?」


夜。祖父とテレビを観ながら惣菜と、トマトチャンプルとポテトサラダを食べているとケイのスマホが鳴った。

母からだった。

『ちゃんと一人で行けて偉いじゃん』

「だから言ったでしょ?私もう子供じゃないんだって」

『はいはい。それで、どう?楽しんでる?』

「ぜんっぜん。本当にこの辺何にもないんだね!」

テーブルの向かいでビールを飲んでいた祖父はそれを聴いて苦笑いを浮かべる。

「……まだママの事許してないんだからね?次は絶対一緒に来て貰うんだから。ちゃんと色々教えて貰わないと、この辺の事なんて全然分かんないんだから」

『それは悪かったって。うん、ママも次は必ず行くから』

「絶対だよ?あ、それで教えて欲しいんだけど。ママに教えて貰ったポテトサラダ作ったらじーちゃんが仏壇に供えたんだけど、なんか理由知ってる?」

『あれ作ったの?あれ、私もおばあちゃんに教えて貰ったんだよ』

「ああ、それで」

『じゃ、ちょっとおじいちゃんと代わって?』

ケイはニヤニヤしながらバツの悪そうな祖父に母と電話のつながったスマホを渡す。


真夜中。ケイは目が覚めた。

昼に寝た所為かもしれないし、慣れない土地の所為かもしれない。

ただすぐには寝付けそうになかった。耳を澄ませると昼間より多彩な虫の声と、セミの声、祖父のいびき。

エアコンのある部屋を宛がわれたが、使わなくても十分涼しかった。

今のケイはジャージ姿だが長袖でなければ肌寒かったかもしれない。ケイが布団からむくりと体を起こす。

少し気分を変えるために外に出る事にした。大丈夫、暗いかもしれないけど、スマホのライトがあるからと。

庭だけのつもりだったが、念のため長靴を履くことにした。蛇、こわい。祖父を起こさないようにひっそりと。

庭に出ると、より虫の声が顕著だった。月はない。その割には明るいと思った。

空を見上げる。ケイの知るどの夜空よりも星が多かった。


(こんなの、知らない)


ケイはスマホを取り出すと、カメラを空に向ける。けれど、画面を見ても星は映ってはいなかった。


(だから、なんでいないのよ!見せれないじゃん!)


ケイは歯がゆい思いで、一人空を眺めていた。

と、そこでふと思い出した。


(そうだ、蛍)


ケイは庭から出ると昼間の小径に向かう。小径は、木々に遮られて星の光も届かず周囲よりも暗かった。

ケイはスマホのライトを点けると、足元を照らしながら道を進んでいった。


小径を抜ける。するとそこにはもちろん水田が広がっていたが昼間と違い風はない。ふと山の方に目を向けると山のシルエットがくっきりと見えた。

それをみて、夜空って影よりも明るいんだなとケイは初めて知った。


(蛇……いるかな?でも、じーちゃんの長靴もあるし)


ケイは昼間とは違い、慎重に泉に向かって歩き出す。ケイは不思議だなと思った。そしてクスっと笑った。

昼間は何てことなく歩けてたのに。今はこんなにもビクビクしてる。それが妙に愉快な気分にさせた。

愉快な気分になったら勇気が湧いてきた。慎重に、でもたゆまなく足を運ぶ。


(……ほへぇー。これが蛍)


泉に近づくと、明滅するものがあった。ケイはスマホのライトを消す。

より近づくにつれて増えていく青白い光。光と光が呼応するかのように点滅を繰り返す。

飛んで移動していたり、葉の上で光っていたりと様々だった。

それはとても幻想的な光景だった。

試しに捕まえられないかなと、近くの光に近づいてみたが、何度試しても近寄ると飛んで逃げてしまった。

捕まえるのは諦める事にする。ケイはスマホを取り出すと暗闇の中、しばらくカシャカシャと撮影するのだった。

まあ、今の時間送るとさすがに夜更かしがバレて怒られるので、帰ったら見せようと思う。



「ケイちゃん、眠そうだね?」

欠伸をしていたら、運転している叔父にそう話しかけられた。

「その、昨日変な時間に目が覚めてしまって」

「あらら。じゃ、到着するまで寝てても大丈夫だよ?」

「平気です」

今ケイは合流した叔父家族と一緒に、少し離れたレジャー施設に向かっていた。

叔父家族とは今回初対面のため、祖父のようにはいかず借りてきた猫のようになっている。

「ケイねーちゃん、寝ないで何してたの?」

従妹にも初めて会った。美少女である。別に負けてないし、と若干対抗意識は燃やしつつも、「おしゃれ!きれい!大好き!おねーちゃん!」と慕ってくれるので悪い気はしないでいる。

「んー、スマホで動画観てたかな……」

「スマホ!いいなー、ケイねーちゃん。ねえ、パパママ。私も持っちゃダメ?」

「ダーメー。お前にはまだ早い。せめてケイちゃんぐらいしっかりしなきゃな」

「えー」

その会話を聞いて、悪い気はしないケイだった。

「でも、都会育ちのケイちゃんにはじーちゃんちは退屈じゃないかな?」

「ア、アハハ、まあ、ゆっくりしてますよ」

否定しがたい正直者のケイであった。叔父家族がいるのでだいぶ助かっているが。と、そこに従妹が口を挟む。

「あ、でも蛍いるじゃん。あれ、都会にないしケイねーちゃんも楽しめるんじゃない?」

「いやいや、蛍はダメだって」

その叔父の否定の言葉が気になった。

「蛍はダメなんですか?母も蛍自慢してたんですが。やっぱり、夜遅いからとか?」

すると叔父は首を振る。

「違う違う、そうじゃないよ。というか、蛍は9時以降は光らないから。そうじゃなくてね、この辺の蛍って6月なんだよ。単純にシーズンの話」

「あー、そうだった。残念、ケイねーちゃんと一緒に蛍見たかったのに」

「そうだね。でも今日は花火たくさん買ってきたから、夜一緒にやろうね」

「だった!ケイねーちゃん、夜も楽しみだね!」


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