第6話 タンポポ

川に向かって大きな空き地がある


かつて石綿で万のものをつくる工場があった


小さな船溜まりに錆びついた橋をわたる


捨てられた一斗缶、開けると中には青い石綿の屑


砕かれたコンクリートに背の低い雑草


タンポポが丸い綿毛をつけて風に揺れている


綿毛を蹴っ飛ばし種は空に蒔かれていく


石綿の屑を手に掴むと空に放る


綿毛と石綿が風にまかれて風に舞う


気が付くと男があおむけに倒れているのに気が付く


髭を伸ばした背の高い初老の男


僕はランドセルを背負ったまま


男は寝転がっては空を見ていたのだ


派手な裏地の背広とゴールドの高級腕時計


こいつは結構いい思いをしてきたらしい


今はなぜかこんなところに倒れているが


なんでこんな奴がここにいる


遊び場を乗っ取られたような感じがして


ふいに風が吹いて、綿毛が舞って


男とぼくの目が合った


瞬間なぜだか僕は男を哀れに思った


一目散に引き返して僕は走った

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