第12話 やるなら徹底的に


「え?まじ?」


 目の前でガメーイを斬り殺したエリスに面食らっていた。

 まさか、こんな行動に出ると思っていなかった。


(なにやってんの?)


「一応雇い主じゃ?」


 俺の予想としては雇い主との契約を終わらせてから、穏便に話をつけると思っていたのだけど。


「どうだった?」


 まるで褒めてほしそうな子犬のような顔をしている。


「あ、いや。意外だったよ。ここまでの行動に出るとは思わなかった」


 でも、これやばいよな?明らかに。

 殺したのは貴族だぞ?

 しかも国でもかなり力のあるって言われてたし、実際好き勝手やってたやつだ。


 さいわい目撃者はいないみたいだけど。


「どうするの?この死体」

「村の外に捨てに行けばいいだろう。モンスターか野犬がいいように処理してくれるよ」


 軽いな。


 まー、それはそうだけど。


「ガメーイ殺しの責任は全て私が取るよ。だからアルマはなにも気にしなくていい。もし、問題が起きた時は私を切り捨ててくれて構わない」


 覚悟ガンギマリだな。


 とにかく、俺の責任になることはなさそうで良かったけど。


「そうだね、まずはこの死体をさっさと捨てに行こう」



 作業が終わり戻ってきた。


「さて、アルマ。案内してくれるかい?」


「どこに?」


「君の施設だよ。年齢制限はたしかなかったよね?」

「え?」

「私も今日から戦闘兵になるよ。そうしたらずっとキミと一緒にいられるだろう?」


 それはそうなんだけど。


(あれ?エリスってこんなキャラだっけ?)


 原作では最初から最後までお金第1みたいなキャラだったのに。

 俺が負かしたせいで、キャラ崩壊させてしまったようだった。


「私は今日からアルマ第一に考えるよ」


 うーん。


 エリスというキャラをめちゃくちゃぶっ壊してしまったぞ。


「アルマ♡」


 俺の腕にしがみついてくる。


「これからはずっとアルマの忠犬でいることにするよ」


 なんか、忠犬ができてしまった。

 本来味方になるはずがないキャラが味方になってしまった。



 エリスの戦闘兵になるための手続きは思ったよりも簡単に終わった。

 というのもこの国は優秀な戦闘兵を常に求めてる。

 そこに優秀な人材が来るとなると、結果は火を見るよりも明らかというやつ。(この世界の戦闘兵というのはいわゆる公務員的なやつである。どんなに仕事がなくてもクビにならずに固定給で働くようなシステム。誰でもなれる割にそこそこ高収入)


 そして、夜。

 俺たちは施設の敷地内の隅っこの方でこれからのことを話し合ってた。


「何を知ってるのかとか。細かいことは聞かないよ。アルマはこれからどう動きたい?私はそれをサポートするよ」


「竜王の撃破」


 竜王は本当にいるの?とかっていう質問はない。俺の話すことはすべて真実だと思っているようだ。


「墓に向かうんだね」


 コクっと頷く。

 チュートリアル発生原因のガメーイを殺したとはいえ。直接の原因となる竜王はまだ残ってる。

 どういう因果で俺を殺しに来るか分からない以上は安心できない。

 よって、竜王の方も始末したい。

 俺は徹底的に死亡フラグの破壊をやりたい。絶対に死なないように。


 それから村を襲わせたくない。

 よって、こっちから戦闘を仕掛けることにする。


「計画はどうする?」


 それが少し悩みどころでもある。

 ガメーイが死んだため、いろいろと問題も発生する。

 一番でかいところだと自然な流れで竜王の墓へと向かえなくなった。


「夜にこっそりと向かうとかはどうだろう?」


 ふむ。墓までの道のりは知っている。

 それもいいかもな。


「いったんそれで向かってみるか」


「なら、今から行ってみるかい?」


 当初の予定ではもう少し特訓する予定だったんだが……


(エリスが仲間になってくれた。2人合わせた戦闘能力は3倍~5倍とかになっただろう)


 それだけあれば十分だ。

 それに、ガメーイが死んでストーリーが変わってしまう可能性もある。

 竜王が目覚める流れも少し変化する恐れがあるし、さっさと討伐に向かうべきか。


「今から墓に行こう」


 とりあえず墓まで向かってみることにした。


 レベルだけで言うと今の俺のレベルで倒すことができる思う。


 やれそうならそのままやってしまうことにしよう。


 ちなみに強さで言うなら、エリスの方が竜王よりも何倍も強い。

 原作もエリスがガメーイの援護に回らなければ、解決してたんだよな。


 村を出て、墓があるところまで来た。

 一時間ほど歩いた場所に墓はある。


 竜王の墓はとても深い穴になってる。

 この深い穴に落ちた竜王が眠っているというのが伝承である。


「降りてみようか?アルマ?」


「うん」


「先に行くよ。もしやばそうなら切り捨ててくれて構わない」


「切り捨てないよ。もう仲間だろ?」


「仲間より先の関係を望んでもいい?」


「それはエリスの今後の態度次第かな」


 俺たちはそんな軽口を叩きながら穴の底へ降りていった。


 穴の底に着地。


「おぉぉぉ、これが竜王?」


 目の前には巨大なドラゴンが丸くなって寝ていた。


(こいつを殺せばチュートリアルは起こらなくなる)


 俺とエリスは目を見合せた。


「アルマ、やってしまうのかい?」

「もちろん」


 今この場にはエリスもいる。

 正直言って負ける気がしない。


「私はどうしたらいい?」

「俺がミスったときのフォローを頼みたい」


 俺は今からこのドラゴンをワンパンしたいと思っている。


 この世界だが、寝ているモンスターに対しての攻撃力は初撃だけ5倍となる。

 さらに弱点を攻撃できた場合はそこから更に5倍となる。


 つまり初撃だけ25倍のダメージで攻撃することが可能だ。


 そして、竜王の弱点は……


「アルマ、どこまで歩くの?」


「ここで終わりだよ」


 尻尾の先端まであるいてきた。


「尻尾?初撃でここを攻撃するのかい?竜族ならここじゃなくて、首や心臓の方が良さそうだけど」


「こいつはドラゴンの見た目をしてるけど、正確には一般的なドラゴンじゃない。だから弱点も違う」

「え?」


「アンデッドだよ。別称は屍の王」


 力を溜めて……


「スタブ!」


 俺はドラゴンの尻尾の先端に向けて突きを放った。

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