第11話 【エリス視点】
あぁ。
私はなんてことをしてしまったんだろう。
後になって後悔していた。
欲望に負けずにいつも通り冷静でいられたのなら、きっと。私は。
最強のままでいられたのに。
膝立ち。
荒くなる呼吸。
私はそんな中で後悔をしていた。
これまでのことを思い出していた。
そして、思い知らされた。
(目の前の相手の力量を見誤っていたのは、私の方だった)
◇
「いい提案だね」
目の前の少年、アルマがそう言った。
どうやら、私の誘いを受けてくれるようだ。
「だが、俺にメリットがないような気もするけど?」
この戦闘をやるメリットについてアルマは気にしているのだろう。
もちろん、私も報酬というやつを考えている。
「君が私に勝った場合、私がガメーイを止めよう。それが君の望みだろう?」
私は戦闘に勝った場合(というか、戦った時点で)抑えられない闘争欲求を解消することができる。
彼が勝った場合、彼の要望が通る。
どちらにとっても悪くない決闘なように思うけど。
「どうだい?少年。私は君と競い合いたくて仕方がないんだよ」
「乗った」
少年が言った瞬間、戦いの火蓋は切って落とされる。
先手を取るのはもちろん自分である。
「スラッシュ!」
強烈な攻撃を放つ。
(反応できまい)
初手で沈めるつもりだった。
しかし……
「パリィ」
(いまのをパリィできるのか?)
歓喜に震える。
やっとだ。
やっと、好敵手を見つけた。
今の一撃を防げた人間は過去に誰1人としていなかった。
それもそのはずだ。
今のは開始の合図も待たずに放つ不意打ちに近い一撃。
反応できる人間はそう多くない。むしろ0だった。
だが、目の前の少年は笑顔で言った。
「やっぱり、そうきたか。あなたは剣士ではない。傭兵だもんな」
「何が言いたい?少年」
「騎士道もなにもない。つまり開始の合図もなにも知ったものでは無い。勝つためなら不意打ちだって辞さない」
口元を歪めた。
この子は本当にどこまでも私のことを理解している。
「正解」
勝つことが正義。
勝つことがすべて。
負けることには価値なんてない。
それが私の価値観。
騎士道?
誇り?忠義?そんなもの知らぬわ。
【勝利】の二文字以外に価値などない。
(さぁ、叩きのめしてやろうか)
…
……
(おかしい)
数分。
剣を振りあっていた。
なのに
(なぜ、一向に剣が届かん。私の行動がすべて読まれているような気さえしてくる)
目の前の少年はすべての剣をパリィする。
そのたびにカウンター攻撃が飛んできていたが。大したことはない。
私とアルマのステータスの差は圧倒的だから。致命的なダメージにはなりえない。
だが、私は焦っていた。
(なぜ、攻撃が通じん?なぜすべてパリィされるのだ?ありえん)
私の人生は剣にささげてきた。
目の前の敵を粉砕したいがために鍛え上げた。
そんな私の剣を軽々といなす姿に苛立ちと焦りを覚える。
まるで、お前の練習はすべて無意味だったと言われているようだった。
人生を否定されたような気がしてくる。
(くそっ)
勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。
ひねりつぶしたい。
(このままいけば間違いなく引き分け。決着はつかない。そんなことは許されない、勝ちに行く)
次に取る行動も決まった
正々堂々?そんな言葉は知らん。
何をしてもパリィされるのであれば、パリィできない攻撃をしてやればいい。
「魔剣【フレイムソード】」
魔力で炎の剣を作り出す。
それをアルマに向けて振り下ろす……が。
アルマはにやっと笑っていた。
「ヒューマンエラー。それが君の敗因だ。パリィ」
「なっ……」
攻撃はパリィされた。
アルマは私の胸を殴りつけた。
「かはっ……」
呼吸が止まる。
地に膝を着いた。
「終わりだ、エリス」
スっ。
首筋に剣を突きつけられていた。
(負けたか)
自然と理解できた。
「なぜ、フレイムソードをパリィできたんだい?」
魔力で作るフレイムソードは物理攻撃ではない。
パリィできるはずがない。
いや、そもそもおかしいことはまだある。
百歩譲ってフレイムソードをパリィできるとしよう。
「なぜ、ここまで連続でパリィに成功したんだい?」
「答えられない」
ギリッ。
悔しくて歯を食いしばった。
初めて負けた。
勝利の二文字しか知らなかった、私が敗北の二文字を知ってしまった。
「パリィの一般的な成功率はおよそ1%と言われている。それを、ここまで。まぐれか、それとも」
パリィにもっとも必要な要素はタイミング。
広く知られている事だが、このタイミングはシビアで一朝一夕でできるようなものではない。
(安定して成功させるには何年もの修行が必要と言われているようなものなのだぞ?)
それをこのような少年が?
「まぐれかどうか。どっちだと思う?」
言葉はいらない。
答えは分かっていた。
よって、私は悔しくても負けを認めるしかなかった。
それだけ、この少年が私よりも高みにいることを分からされたのだ。
「参りました」
激しく後悔した。
目の前の相手をねじ伏せたいという一時の思いで初めて負けてしまった。
そのとき私たち以外の声が聞こえた。
「おい、いつまで油売ってやがる。エリス」
声の聞こえた方向にはガメーイが立っていた。
一向に戻らない私のことが気になったのだろう。
(あー、そうだった。ガメーイを止めないと)
アルマも頼み込んでくる。
「ちゃちゃっと話し合いでもして、止めて欲しいな」
まるで私が止めてくれるのを分かっているようだった。
私のことを心から信頼しているような、そんな顔をしていた。
(この少年はさっきからまるで未来を知っているかのような言動ばかりだ)
初めから私のことを知り尽くしているような、言葉と行動の数々。
そもそも……
『なんであんな嫌なやつといるの?』
そう聞かれた時からしておかしいかった。
ガメーイの隣にいる私にそんなことを聞くだろうか?
彼からしてみれば私などガメーイの側近にしか見えないはずなのに。
(私とガメーイの薄い関係性を知っていた)
告げ口されないことを分かりきっているような感じだった。
まるで、私がアルマという少年の手のひらの上で踊っているような気がした。
実際、全部知ってますよ、みたいな顔をずっとしている。
だから、思ってしまった。
(アルマを驚かせてみたい)
私は君の人形では無い。
生きた存在だ。
自我だってある。
普段は押し殺しているだけ。
その自我を今解き放とうと思う。
「ガメーイ卿」
私は立ち上がってガメーイを見た。
「どうした?エリ……」
ザン!
ガメーイを斬り殺した。
それを見ていたアルマの顔にやっと驚愕の色が浮かんだ。
私は彼の知らない行動をしたようだ。
それだけで満足した。
(やっと驚いてくれたね?)
彼との勝負には負けたが、私は精神的な勝利を得た。
同時に私はアルマの前で膝を着く。
「この身をあなたに捧げさせてはくれませんか?」
もちろん。彼を裏切るつもりは無い。
「私はいつまでもあなたと共にありたいと思っています」
敗者は勝者に従うのみである。
永遠に。
「私に初めて敗北を教えてくれたお方。これからはずーーーっと守っちゃうぞ?」
ぽかーーんと口を開けて驚いてた。
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