第10話 気付けば最強だったようです
俺は食後に教官棟を訪れた。
向こうが呼び出したのでスムーズに話が始まった。
(なにかやってしまったのだろうか?)
俺の前にいる教官の数は合計で3人。
正直言って一人の戦闘兵の前にこれだけの数の教官がいることなんてまずありえないと言っていいんだが。
そのありえないことが起きている。
これから始まる話がただ事でないことは伝わってくる。
(ていうか、まだ話が始まらんのか?)
こそこそと教官たちが話し合ってる。
教官たちは書類をお互いに手渡したりしながら、その書類を見てごにょごにょと話している。
なんの話をしてるのかは分からないけど。
やがて、話がまとまったようで一番権力のありそうな教官が口を開いた。(原作でもかなり立場は上の教官である)
「数日後、ガメーイ卿という貴族がこの村にやってくるのだ。その案内をキミに頼みたいと思ってね」
「っ?!」
原作ではこの施設で一番の成績を出していた人物、シエルが頼まれる仕事だった。
それがモブの俺に回ってきていた。
「どうして、俺に?」
「ガメーイ卿はこの村にとって大切な客人だ。何が起きてもすぐに対応出来るようにウチの施設でも実力を持った者に担当させたいのだ」
それってつまり、
「俺が実力を持ってるってことですか?」
「そうだ。キミは訓練でとても優秀な成績を出し続けている」
教官は普段の訓練での俺の働きを語っていく。
俺のことを割と細部まで見ているようだった。
「特にレックスを相手にパリィをし続けた君のセンスには脱帽したよ。あれだけパリィをし続けられる人間はそうはいない。君ならどのような状況でも対応してくれると信じている」
俺の目を見てきた。
「それでどうするかね?頼まれてくれるかね?」
(ガメーイに一気に近付ける唯一のチャンス。これを逃すわけにはいかない)
「やらせてください」
◇
数日後。
予定通りガメーイやエリスがこの村にやってきた。
ガメーイは恰幅のいい男(言い方を変えれば太っている)。
俺はそんなでっぷりと太った男の出迎えに来ていた。
「この村を案内せよ。ガキ」
第一声がこれ。
ムカっとしたが、今はどうこうできるものでもない。
耐えるときだ。
「こちらへ、ガメーイ卿」
俺は村の案内を始めた。
そして、一周したら礼も言わずにガメーイは自分の別荘へと向かっていった。
なんとか問題もなく案内しきったことに安心していると……
「大変だったね少年」
エリスが声をかけてきた。
(美人だな)
エリスはエルフだ。
俺とは比べ物にならないくらい長い時間を生きている。
それでも美しさを保っているのはさすがエルフと言ったところだろう。
(でも、現状エリスは敵サイドだ)
しかし、完全なる敵では無い。この人は金を払われて雇われているだけだから。
ガメーイと比べればまだ救いようがあるし、
(俺の選択肢次第では味方にできるかもしれない)
だが、念のため確認しておこう。
この人がゲーム内と同じような思考回路なのか。
「なんであんな嫌なやつに付き合ってるの?」
キョトンとしてた。
それから腹を抱えて爆笑していた。
「あはははははははっ!!直球だなぁ。あぁ、安心してよ。告げ口とかはしないからさ」
エリスは人差し指と親指で丸を作った。
その行動の意味はもちろん分かる。
「金払いがいいからさ。私は元傭兵。金で動く」
(よし。原作通りだな。エリスは金でしか動いてないし金にしか興味が無い)
エリスのゲーム内でのステータスはかなり高いものだった。
現時点でもかなり高いはず。だから、今の俺じゃ勝つことは出来ない(でも、負けることもない。俺はエリスの行動パターンを全て把握している。完璧にパリィができるから絶対に負けない)
そんなエリスを味方に引き込む(最低限敵じゃなくす)事が出来れば、この先の人生もかなり楽になるはずだ。
エリスは良くも悪くも自我が強くない。
ガメーイに同行しているのだって金払いがいいからだ。
金を積まれたらガメーイを裏切るだろうし。
しかし、平民の俺にはエリスを動かすだけの金を積むことは出来ない。
そのため現状は味方には出来ないので、敵じゃなくすことを目標にしたいと思う。
「キミ、名前は?」
「アルマ」
「私はエリス。短い間だけど、これからよろしくね」
エリスはそれからこれからの予定を語った。
「一週間後、【竜王の墓】に向かうことになってる。竜王伝説くらい知ってるよね?この辺りに住んでるなら」
(出た)
竜王の墓場。
俺を殺すことになる竜がいる場所だ。
かつて存在した竜王という最強のドラゴン。
そのドラゴンが眠っているという噂がある場所。これらのことをまとめて竜王伝説と呼ぶ。
このドラゴンは実在しており、このイベントでその眠りを覚ましてしまうことになるのだ。
そして、眠りを妨げられた竜王はこの村を襲う、というのがチュートリアル発生の流れ。
「いったいなぜ?あそこが危険なのは分かってるだろう?」
「さぁね?でも、ガメーイが行くと言うんだ。金になるなにかがあるんだろうね」
原作通りの返し。
「止めてくれないか?嫌な予感がする」
「言ったよね?私は金で動く。君が私を動かす金を払えるなら止めてもいいけど」
金にしか興味が無い。
本当に原作通りの人だ。
「あと、止めるのは私じゃなくてガメーイじゃないかい?私は竜王の墓になんて興味がないからね」
(俺から声をかけてもなんの圧にもならない。だから彼女に頼んでるんだが、それも無理となると)
あいつを止めるとなると殺すしかないよな。
だが、殺すのはリスクがある。
奴は有力貴族、消えればそれなりの問題になるだろう。
「ガメーイを止めるなら殺すしかないだろうね」
まるで、俺の考えを読んだような言葉。
「でも、殺すなら私はあいつを守らないといけない。結果は分かるよね?」
ブン。
エリスが俺にステータスを見せつけてきた。
名前:エリス
レベル:368
スキル:HPリジェネEX
(かなり高いな。それからやっぱり持ってるよな【HPリジェネ】)
だが前述した通り。
俺はこの人の行動パターンも攻撃パターンも俺はすべて把握してる。
よって、パリィをやり続けて負けないことはできる。(向こうは俺の与ダメ以上に回復を続けるので平行線の無意味な作業になる)
「結果なんて分かってるよ(勝敗はつかない)」
「じゃあ、諦めることだね」
去ろうとしていたエリスだったけど。
「俺があなたを倒すことができれば、側近もいなくなりガメーイをヤレる」
ピクリ。
耳を動かして俺を振り返って見た。
「まさか、正気かい?私を倒すつもり?」
興味深いものを発見したような顔をした。
俺に興味が湧いたようだった。
「長く生きてるけど初めて聞いたよ。そんなこと、よっぽど自信があるように見える。そういえば、聞いたよ。村の案内役は【最強】が選ばれって」
エリスが剣に手を持っていく。
エリスは柄を握った。
「今すぐここで試してみるかい?」
感じるのは殺気。
その時に気付いた。
俺はエリスというキャラクターを見誤っていたかもしれない。
金にしか興味が無い奴。
そんなイメージだったけど、多分違う。
エリスは心の底に隠していただけなんだ。
湧き上がる闘争欲求を。
だって、原作でも見たことがないような心からの笑みを浮かべているんだから。
まるで、原作ゲームを遊んでいた時の俺と同じような顔。
この人は、戦うことが好きで好きで仕方がないんだ。
「最強と謳われた元傭兵と最強の戦闘兵。どちらが強いのか。試してみようじゃないか?まぁ、ステータスが圧倒的に違うだろうし、結果は見えてるだろうけど。それでも君には興味があるよ」
俺はこのとき、原作でも見ることの出来なかったエリスの側面を見れてしまった。
それは、原作ファンとしては中々に胸に来るものがあったのだった。
そして、俺も思ってしまった。
(たしかに、俺もやり合ってみたい。この勝負勝てるかもしれない)
考え無しというわけではない。
ゲームの世界なら間違いなく平行線の無意味な戦闘が続くはずだ。
でも、この世界のエリスは生きてる。
(あきらかに感情を出してきてるもんな)
この決闘。
エリスがヒューマンエラーを起こす可能性がある。
パリィスキルの【カウンター】による与ダメは基本的に俺の攻撃力依存。
でも彼女が魔剣と呼ばれる魔法の剣を使って、俺がそれをカウンターしたときの与ダメだけは相手の攻撃力依存になる。
よって、倒すことが出来るかもしれない。
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