第9話 おや、幼なじみの様子が……?

 今更だが思い出す。

 この世界のこと、ストーリーのこと。


 なぜ、俺たちがいるこの場所が襲撃されるのか。


 そして、なぜ原作では襲撃に耐えられなかったのか。


 疑問に思う人もいるだろう。

 この村には村を守るだけの戦力がいないのかって。


 その答えだけど。

 正確には戦力はいたし、村を守る人間もいた。

 なんならこの村には作中トップクラスの人間もいたくらいである。


 だがその人たちは襲撃時にこの村にはおらず。その結果襲撃に耐えきれず、この村は壊滅した。


 いなかった原因だが、とある悪役貴族の根回しが原因である。

 その貴族は国でもトップクラスの権力を持っており、周りも口出しできない。


 この貴族が丁度この村に来ていたのだ。


 そして、この貴族はこの村を守るはずだった人たちに言った。


『私を警護して王都まで行け』


 これがチュートリアルの大惨事を引き起こした原因である。

 本来なら最前線に飛び出して戦うはずだった兵士たちもこの一言で奴の護衛をすることになっていた。

 なんとも自分勝手な奴で、こいつのせいで村ひとつと多くの命が失われてしまったのだ。


(この貴族をどうにかする方法を考えよう)


 言ってみればこの貴族が村にいなければこの大惨事は起きなかったのだ。

 だから、こいつの排除。

 それが俺の計画の目的になる。


 しかしどうやって排除するかだな。


(この貴族。名前はガメーイだったかな)


 ガメーイはこの村に用事があってきているのだ。

 その用事があるうちは去らないはずだ。


 そして、その目的が作戦を考えるうえで厄介である。

 この村はいろいろと金になることが転がっているのだ。


 例えばモンスターの素材だ。

 とうぜん、ここは最前線なので毎日モンスターが倒されるし、その素材も大量に出回る。

 その素材を買って、王都で売りさばくのがガメーイという男。

 そして、さらに厄介なのが、この男。


 この村に投資しているお得意さん。

 そのことは周知されており、教官を始めとしたお偉いさんも手が出せないし口も出せない。


 考えれば考えるほどやっかいな相手なんだけど、さらに問題を複雑にしている要因がある。

 それがガメーイの腹心であるエリスという女エルフ。

 こいつは元傭兵であり、凄腕の人間。

 どちらかというとこいつが一番厄介だ。


 主人のガメーイに降りかかる火の粉をすべて振り払ってくる。


 ガメーイの指示一つで人間の首が飛ぶのも珍しくない。


(だが、こいつの攻撃は最悪パリィでなんとかなるか)


 原作をやりこんだ俺はこいつの攻撃パターンをすべて知っている。

 よって、出てくる技を見ればそれに合わせてパリィが使える。


(最悪戦闘が発生すると考えて動くか)


 よし、考えはまとまった。

 あとは、行動に移すのみ。


 森から去る前。

 目の前に記憶から仮想のエリスを作り出した。

 いざ、対峙したときのシミュレーションを行う。


『スラッシュ』


 エリスの攻撃。


「パリィ」


 攻撃をはじいた。

 剣が奴の手から離れた。

 その瞬間、俺は目にもとまらぬ速さで首を狙った一閃を放つ。

 これがもし、現実にあったことならまさに致命傷だっただろう。


 幻影のエリスは煙のように消えていく。


 大丈夫だ。

 俺ならやれる。


 そう、確信した。

 それから、自然と声が漏れてしまった。


「必ず生き残って、君を(クズ主人公や理不尽から)守ってみせるよ。カレン」


 かならず、俺が君を幸せにしてみせる。

 もう、クズ主人公に捨てられる負けヒロインだなんて言わせない。だって、俺の幼馴染だもん。


 幸せになってほしい。

 切実に。



 施設に帰ってきた。

 夕食の時間。

 いつも通りミーナのところに行こうと思ったけど。


 食堂の扉の前にカレンが立っていた。

 誰か待ってるんだろうか?


「待ってたよ、アルマ」


(俺を待ってたのか)


「あれ?珍しいね?いつも友達と食べてるのに」


 ちなみに彼女が俺と関わらないのには理由がある。

 この施設で友達を作るためだ。(幼馴染の俺とはこれ以上絆を深める必要がないから)


 そんな設定があった原作を考えれば、こうして待ってくれているのは異常事態である。


「久しぶりにアルマと食べようかなって」


 どういう風の吹き回しだろう?

 いつもは俺なんかとは食べないのに。


「どう?」

「大丈夫だよ」


 心なしか。カレンは嬉しそうな顔をしていた。

 なにかいいことでもあったかな?


 食堂に入る前。

 後ろからカレンが抱き着いてきた。


 びくっとした。

 いきなりだもん。


「ええっと、カレンさん?」


「ふふふ」


 笑うだけのカレン、なんだかその内心が見えなくて少し不安になってくる。


「最近よく頑張ってるねアルマは」


 そう言って俺から離れた。

 頑張ってる?施設での特訓のことだろうか?

 まぁ、たしかに頑張ってるけど。


「今日のご飯はアルマがいてくれるし、おかげでおいしそうな感じがするなぁ」


 そう言ってたカレンの表情はどこかで見覚えがあった気がした。


 どこで見た覚えがあるのかはすぐに思い出す。


(あ、これ。ミーナがよく浮かべてるタイプの笑顔だ)


 ええっとカレンさん?

 ひょっとしてー、あなたも重い感情をぶつけてくる。

 激重ヒロインになるおつもりですか?


 最近俺の周りに来る女の子こんなのばっかだけど、俺がなにかしたんだろうか?


 うーん分からないな。


「そうそう、アルマ。教官が呼んでたよ。食後に教官棟にきてほしいってさ」

「え?」


 なんか呼び出されることでもしたのだろうか?


 特になにか問題を起こしたような記憶はないんだが。


「それにしてもなんで俺に直接言わなかったんだろう?直接言えばいいのにな」


「アルマは自由時間になるとすぐ森の中に消えるから、それで私に伝言頼んだって。」


 なるほどね。


(って、ん?)


 カレンは俺が森に消えるのを知ってるっぽいよな?ずっと見てたのか?俺が森に行くところ。

 教官は俺一人の動きに気を配るほど暇ではない。ってことは、やっぱりカレンは見てたんだ。


(これ、訓練の様子も見られてたり?)


 それどころじゃない。もしかして、俺のあの恥ずかしい呟き聞かれてたのかもしれない?


 恐る恐るカレンを見てみた。

 にやにやしてる。


「そかー、アルマがねー。そうなんだー。アルマの気持ちはよーーーーーーーく分かったよ。何がとは言わないけどね。でも、嬉しいな~?」


 あー。これ、聞かれてたっぽい。

 じゃないと、この突然の接近も説明がつかないし。



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