第8話 やりすぎたかもしれない
俺が食堂に戻ってくると軽い騒ぎになっていた。
なんでこんなに騒ぎになっているのかだけど。
理由はすぐに分かることになった。
「おい、あれだけ暴れてたレックスのやつ魂が抜けたみたいだぞ」
「昼間の一戦がやっぱ効いてるんだろうな」
「あいつフルボッコにされてたもんなぁ」
話題の中心になっているのはレックスだった。
レックスは原作通り、この世界でも横暴な態度だったのだが、そいつが急に借りてきた猫のように大人しくなるものだからみんな驚いているようだ。
例えてみると、そうだな。
人里に降りて暴れ回っていたクマが翌日、猫に睨まれたネズミのようにジーッとしているようなものか。
(そりゃ、話題にもなるよな)
で、そんなレックスをこのザマにした俺にも注目が集まり始めていた。
「あいつだよな?昼間レックスをボコボコにしてたの」
「かっこよかったなー」
「彼女とかいるのかなー?」
そんな話をされていた。
噂話をされるのは好きではないのだが、仕方ないか。
それだけのことをした自覚はある。
だが、俺はなにも聞こえないふりをすることにした。
今日もミーナの待っている隅っこの方に向かっていく。
「こ、こんばんはアルマくん。今日も来てくれたんだね。えへへ」
「そういう約束だしね」
「そうそう、なんか大変なことになってるみたいだよ」
「ん?たいへんなことって?」
ミーナはレックスに目をやった。
俺も目をやる。
レックスのもとに教官たちがやってきてた。
「うげっ」
その中にはこの施設自体を管理している上級教官という役職の人間もいた。
上級教官の仕事はこの訓練施設に来る志願者の入団を許可したりする仕事である。正直普段はお目にかかれる存在ではないんだが。
(なにをしにきたんだろう?)
そう思っていたらレックスが叫んだ。
「俺はもうこの施設をやめます。やってられません。もういやだ」
食堂内に響くような大きい声。
全員の視線が集められことになった。
教官は額をつまんで困っている様子だ。
どうやら、対応に困っているようだけど、やがて口を開いた。
「急にどうしたんだ?君は数日前までは『この施設でいちばんつえーのは俺だから。俺に従え』って、偉そうにしてたではないか」
「俺よりつえー奴がいるんだよーーーーーーー!!!うわああああああああ!!!!!」
だん!!!!
だんだんだん!!!!
レックスは怒りに身を任せて床を足の裏で蹴ってる。
駄々をこねる子供みたい。
「そいつにずっと好きだった幼馴染もとられた。俺は今じゃ、施設内最弱ランキング一位だしよー。俺にはもうこの施設にいる意味はねぇ。これ以上生き恥晒したくないんだ。だからもう、許して」
ばきつ。
教官はレックスを殴っていた。
「そんなことでやめれると思っているのか?甘いぞ貴様。この軟弱もの」
あらら。
教官が説教モードに入ったな。
この教官は説教モードに入ると話が長いって有名だ。
「こっちにこい、レックス。貴様は教官室でみっちり教育をしてやるからな」
「いやだああああああああ!!!!」
レックスは引きずられていた。
ちなみにこのあと、レックスは暴力で教育されると思う。
だってこの世界は本格ダークファンタジーだもん。
聞き分けの悪い奴は普通に殴られるし蹴られる。
(しかしここまで心が折れてると思わなかったな。壊れてるじゃんレックス君)
うっかり、やりすぎてしまったかも。
1ミリくらいは反省した方がいいかもなー。
ってことで反省した。
はい、反省終わり。
そのあと、座学も実技も消化して。
俺はいつものように例の森でレベリングを続行することにした。
ここに来るときはいつも一人だ。
一人だと考えも研ぎ澄まされるし、はかどる。
順調にレベルは上がっている。
今の俺のレベルは10を超えたくらい。
スキルが揃ってきてレベリングの効率も飛躍的に向上してきている。
このままいけば、チュートリアルを生き抜くことは造作もなくなるはず。
だが、残りの期間もいっさい妥協することなく、最後まで全力で特訓しようと思う。
休憩するのは、すべてが終わってからである。
今日も順調に俺のレベルは上がっていく。
【レベルがあがりました】
【パリィレベルがあがりました】
【パリィできる攻撃が増えました】
当初の想像よりも加速度的にレベリングが進んでいた。
(まさか、ここまで早くパリィできる攻撃が増えるとはな)
パリィはぶっ壊れだが、万能ではない。
物理攻撃なら初めからだいたいは受け流せるけど。
デフォルトの性能だと例えば魔法とかは逆立ちしたって無理だ。
しかし、物事には例外が存在する。
その例外を実現させるのが、これだ。
パリィの対象増加効果。
実はと言いうと、この段階でこれが入手できるとは思っていなかった。
そのため、いい方向に計算が狂ったことになる。
(ここで手に入るなら。これからの行動はもう少し攻めてみてもいいかもな)
俺が計画していたこれからの行動はチュートリアルのドラゴンの襲撃を引き起こしてから、ドラゴンを倒して死亡を回避するという【受け身の計画】だった。
だが、このチュートリアルだが実は発生する原因が存在していたのだ。(これはストーリーが進めば明かされる事実)
ということは、その原因を潰してしまえばチュートリアルの襲撃自体発生しないはずなのだ。
俺が初めからこの計画を立てなかったのには理由がある。
俺の成長が間に合わない、と感じていたから。
(だけど、もう問題じゃなくなった)
だから。いけるはずだ。
これからの計画を変更する。
チュートリアルが起こるのを阻止しよう。
名付けてチュートリアルキャンセル。
俺の死亡原因になるチュートリアルの発生原因を潰す。
これから俺の計画は、【攻めの計画】に変える。
もう、受け身なのは終わりにしよう。
(俺を殺すようなチュートリアルは徹底的に叩き潰す。チュートリアルを粉々に粉砕する)
俺がぜったいに死なないように。
ぶっ壊してやる。
原作主人公も覚醒しなくなるかもしれないけど、まぁ些細な問題去だろう。
もう壊れてるし、あいつ。
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