第7話 心折れる


 結局俺はレックスとの模擬戦を許可した。

 今日はこいつと組むことになる。


「どっちからやるよ?」


 この実技訓練は先行と後攻に別れて攻める練習と守る練習の2つを行う。


「先にどうぞ」


 正直言って俺は攻めるのが苦手だ。

 どっちかと言うと相手の攻撃を誘って、受け流して一撃入れて離脱みたいな、チクチク削っていく陰キャみたいな戦法の方が得意だ。ゲームでもだいたい受け身だ。


 だから攻撃役を譲った。


「後悔すんなよ?」


 ダッ!


 レックスは大ぶりな攻撃をしてきた。

 しかし、それを容易くパリィする。


「なっ……」


 目を見開くレックス。


【パリィ成功を確認。オートカウンター発動】


 俺の体が勝手に動く。

 攻撃を受け流したあと、流れるような右ストレートをレックスの顔面に叩き込む。


「はがっ……」


 鼻を抑えてフラフラとするレックス。

 攻撃は止まっていた。

 俺のカウンターがよっぽど効いたらしい。(原作ではカウンター攻撃のダメージは仕様で攻撃力1.5倍になっていたが、この世界でもそうなのだろう)


「もう終わりか?そんなんじゃ練習になんないんだけど」


「野郎っ!」


 レックスがもう一度攻撃を開始してきた。


 パリィパリィパリィパリィ!

 カウンターカウンターカウンターカウンター!


 俺がレックスの攻撃をパリィする度にカウンターの顔面ストレートが発動する。


「あがっ!ほごっ!うぉっ?!」


 何度も何度も顔面に攻撃を受けるレックス。


「うぅ……」


 鼻を抑えて蹲ってしまう。

 そのとき、周りから声が聞こえてきた。


「あいつ、すげぇ!」

「防御側であんなに攻撃できるんだ!」

「攻撃役有利って話しじゃなかったのか?これ」

「有利な側であれだけボコボコにされてるレックスってやつ弱すぎねぇか?」


 レックスは俺から少し離れたところで膝立ちになった。

 ずっと鼻を抑えている。


「レックス?もう終わりか?」


 シーン。

 答える声はなかった。


 あー、そういえば。


「お前まだ防御側やってなかったな?いいよ。今度は俺が攻撃役やるからさ」


 ビクッ!

 レックスの体が軽く震えていた。


 なんだろう?

 武者震いだろうか。


 さすが主人公様だ。

 防御側もやりたくて体が震えるなんてすごいや。


「早くたちなよレックス。まだ訓練の時間は終わってないよ?」


「もぅ、許してぇ……」


 ん?


 なにを許すのだろうか?

 分からないけど。


「なぁ、レックス。お前は戦闘兵になりたくてここにいるんだろ?」


 ここにいる戦闘兵たちは全員将来立派な兵士になるために集まっているのだ。

 そして、訓練を受けている。


 レックスも同じはずだ。

 というより原作ではレックスの覚悟は嫌という程に書かれていた。

 そのため、俺はこいつの覚悟は知ってる。


「はやく立ちなよレックス」

「もぅ、むりぃ……」

「無理じゃない。立つんだ」


 俺は拳を構えた。

 荒療治だが、気合いをいれてやる必要があるかもしれないな。


 顔を真っ青にして俺を見上げてくるレックス。


「な、なにをするつもりだ?」

「俺はまだ攻撃役をやっていない。だから攻撃するよ。俺の攻撃、耐えてくれよ?」


 レックスは滝のように汗を流し始めた。

 一方で俺は拳を振り下ろす。


「うぎゃあぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁあ!!!!」


 レックスの悲鳴が響いた。



 うっかりやりすぎてしまったようだ。


 目の前では大の字に寝転がって、ピクピクと痙攣しているレックスの姿。

 俺は前世では暴力というものに縁のなかった人間である。

 人を殴ればどれだけのダメージを受けるのかとかよく分からなかったし。

 なによりこいつは原作では俺の幼なじみの心の隙間に付け入るようなやつだったのでムカついていた。

 そのストレスを発散するように殴っていた。


 まぁ、そんな感じで。いろんな要素が重なり合った結果、どうやら殴りすぎてしまったようだ。


(死んでないよな?)


 つんつん。

 靴の先でレックスの体をつついてみた。

 ピクリと、少し反応した。

 うん、大丈夫そうだな。

 死んで無さそうだ。

 なによりこいつは原作主人公。

 主人公補正ってやつもあるだろう。

 ちょっとやそっとじゃ死なないはずだ。


 ってわけで、これ以上このことを気にするのもやめだ。


 俺は教官のところに向かっていった。

 ちなみにだが俺たちの一連の動きは教官を含む、多くの人たちによって見られていた。

 まぁ、それだけ視線が釘付けになるような出来事だったんだろう。

 しかし、誰も止めて来ないし、やりすぎてって訳では無いと思う。


「俺の相手伸びちゃってますし、今日はもういいですよね?」


 原作ではこの手の訓練は続行不能と判断されればその時点で切り上げてよかった。

 そのため、聞いてみたんだけど。


「あ、あぁ」


 教官は俺の予想通りそう答えてくれた。

 困惑していたようだが。


 まぁいいや。


「では、お先に」


 俺はそう言って森の方に向かっていくことにした。

 もちろん、先に切り上げても休憩するようなことはない。

 空き時間もひたすら訓練、訓練、訓練だ。



(そろそろ切り上げようかな)


 そろそろ夕食の時間だ。

 ちなみにだが、各食事の時間帯は決まっている。

 その時間帯に取らなくてはならない決まりになっているのでここばかりは他の奴らと行動を合わせる必要がある。


 本当はもっと特訓したいけど、仕方ない。


 それはそうと最後に現在のレベルのチェックくらいはしておこうか。


(現在のレベルは6か。最初に見た時よりはかなり上がったな)


 一日で上がるレベルはせいぜい2くらいかなと思ってたけど今日は4つくらい上がってる。

 悪くない上がり方どころかここにきてレベルの上がり方が加速した。


 ありがたい話だ。

 たぶんだけど、レックスが俺にめちゃくちゃパリィをさせてくれたおかげだと思う。


「さて、レベルのチェックも終わったし、食堂の方に帰るか」


 俺がそうして帰ろうとしたところだった。


【新たなパリィスキルのスロットが解放されました】


 お?まじか?

 見てみよう。


【パリィスキルスロット】

残りコスト:1/5

スキル1:経験値同調

スキル2:カウンター

スキル3:【空き】


 といったふうに、追加でパリィスキルを設定出来るようになっていた。


(よし、そういえばまだ使ってなかったスキルがあったな)


 【ダメージ付与】のパリィスキルだ。

 これをラストの枠にセットしてみることにしよう。


  ちなみにこのスキルはカウンターとの相性が抜群である。

  カウンターのダメージに【ダメージ付与】の効果が乗るからだ。


 パリィを続けるだけですっごいダメージソースになるのだ。


 つまり防戦一方でジリ貧になるということがない。

 パリィゲーと言われる理由でもあるけど。


 更にパリィによる獲得経験値は与えたダメージによって増えたりもする。


 パリィゲーが止まらない!

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