第2話 伝家の宝刀パリィ

 森の中にあるそこそこ大きな木の前にやってきた。

 木の幹を叩いて強度を確認する。


「これくらいの木でいいな」


 それから近くに生えていてちょっと丈夫そうな草を数本むしり取った。

 一本の長さは20センチとかだけどこれを複数繋げばちょっとした長さのものができ上がる。これを以下草ロープという事にする。(原作でもこのアイテムは存在しており同じく草ロープと言われていた)


 それからちょっとしたサイズの石ころを拾うと草ロープの端っこに石ころを括りつけた。

 絶対に落ちたりしないように念入りに縛る。


 これを木の幹にくくりつける。


 プラーンとぶら下がる石ころ。左右に揺れてる。

 照明の紐のように右から左に、左から右にっていうふうに。


「パリィが存在するなら、これで練習できるはず……!」


 右から左に来る時、ちょうど真ん中を通った時くらいに攻撃すればオートでパリィが発動するはず。原作ではそうだった。


「いまだ!」


【パリィが発動しました】


 ヌルッ。


 そんな効果音が似合いそうなモーションがオートで出た。


 俺の意志と反して、体が勝手に動いて攻撃を受け流す。

 石ころを剣の刀身で転がすようにして、石ころの動きを受け流した。


 それを見た俺は歓喜の声をあげた。


「あるぞっ!この世界にもパリィがっ!」


 パリィが存在するなら、俺のゲーム知識はほとんど通用すると言っていいだろう。

 なんとなく安心した。


 正直初めは不安だった。

 ダークファンタジー世界に転生したのだから、正直不安しか無かったんだけど。


「いけるっ。俺は生き残れる」


 パリィが存在しているなら俺はこの世界でも生きていけるはずだ!


(パリィの存在は確認した。あとは、レベル上げだな)


 レベル上げ。いわゆるレベリングだが。

 原作をプレイした俺だからこそ知っているレベリング方法というものが存在する。


 そのレベリングを思い出す前にこの世界のことを思い出す。

 この世界にはいくつか育成要素があるんだが、一番大きなところでいうと。もちろんステータスなのだが、その次に大きいのがこの【パリィ】である。


 実はこの世界、パリィシステム自体にも育成要素が存在する。

 驚きましたか?お客さん。

 そうなんですね。

 実はこのパリィ、成長するんです!


 通常、このパリィのレベル上げなんだけど【パリィ】を使うことでしか上げることが出来ない。


 だが、パリィにばかり気を取られているとステータスのレベリングが停滞することが多い。

 だからプレイヤーはパリィとステータスのレベリングを両立できなかった。どちらか、優先したい方のレベリングを優先するのが基本だ。


 しかし、物事には例外が付き物である。


 俺は、その例外を知っている。


「よし、とうぜん。両方を同時にレベリングするぜ」


 俺には時間が無い。少しでも効率的に生きる必要がある。

 俺の死亡エンドまでの時間は残すところ1ヶ月。

 ここから入れる保険なんて普通にやってたら存在しない。

 だから普通じゃないやり方をする。


 見る人によっては何をしてんだこいつ、となるような光景が繰り広げられるだろうが、これが史上最高効率のレベリングである!


 俺は草ロープを掴んだ。

 グイッと石ころを左に持ち上げ、それを落とした。石ころは弧を描くように空中を右に移動し始める。

 先程と同じように攻撃を合わせて【パリィ】を発動する。


【パリィが発動しました】


 さっきとなんら変わらない表示がされる。


 そのまんま俺は何度も何度も【パリィ】を発動させた。

 その様子は知らない人から見れば、照明のヒモで遊ぶ子供のように見えるだろう。  


 実際、俺はあんな感じで草ロープの石に向かってパリィをずっと行っていた。


 どんどん時間が経過していく。

 表面上はなんの変化もなく、時間が経過していく。

 そのせいで不安になってくるが、その不安を振り払うように石ころを相手に【パリィ】を続けた。

 だが、その苦労はついに報われることになる。

 数時間後のことだった。


【パリィレベルが上がりました。レベル1→レベル2】


 きたぁあぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁああ!!!


 待っててんだよぉぉぉぉぉ!!!このときをっ!!!!


 レベル上げてなにが変化すんの?って言われるかもしれないが、このレベル1が大事なのである。

 このレベル2は命より重い。

 このレベル2が世界と俺の人生を変えると言っても過言では無い。


【パリィスキルを使用可能になりました。使用したいパリィスキルをステータスから選択してください】


「ステータスオープン」


 ステータスが開いた。


名前:アルマ

レベル:1

攻撃力:3

防御力:3

体力:30

魔力:30


パリィレベル:1


【パリィスキルスロット】

残りコスト:3

スキル1:【空き】   

スキル2:【空き】



「えーっと、ゲームみたいに【空き】を選択すればいいのかな?」


 空きを選んでみた。

 すると、現在セットできるスキルの数々が現れた。


【セットするスキルを選択してください】

→経験値同調     コスト3

簡易説明:パリィで経験値を得た場合、ステータスの経験値も獲得可能。変換効率は役半分

・ダメージ付与    コスト1

簡易説明:パリィ時、エネミーにダメージ付与。使用者の攻撃力に依存する

・後隙キャンセル   コスト1

簡易説明:パリィ失敗事の後隙が短くなる



 もちろん、どれも有効なスキルだ。

 唯一使えないスキルがあるとしたら経験値同調くらいに見えるだろうが、実は現時点ではこれ一択だ。

 察している通りこれはぶっ壊れスキルとなっている。


 なぜならこのスキル。

 パリィレベルを上げるのとステータスのレベリングが同時進行可能になるからだ。


「きたきたきたーーーーーーっ!!!テンションも上がってくるぅぅ!!」


 俺は【経験値同調】をスキルスロットにセットして、もう一度パリィを繰り出した。

 何度も何度も。


 気が狂うほどの回数のパリィを繰り出していく。


 傍から見たら完全に気でも狂っているように見えるだろうが、俺は人目も気にせずにパリィを続けた。


 どうせ誰も見てないだろうしなっ!

 人目なんて気にしている暇があるならレベリングだ。


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