チュートリアルで死ぬはずだったモブですけど、努力しすぎたみたいです。うっかり主人公の出番根こそぎ奪ってしまいました、好き勝手やってるだけなのにヒロインたちからの愛が重くて困っています

にこん

第1話 異世界にきたらしいけど俺は死ぬらしい

「んん〜」


 俺は欠伸をした。

 寝起きの欠伸はいつも自然と出てくるものである。

 しかし、今日はなんだかポカポカしているな。

 まるでそとにいるかのようなぽかぽか感。

 ちなみにまだ寝ぼけてる。

 目もほとんど開いていないので感覚で動いている状態だ。


「ふぅ〜」


 思いっきり伸びをしてベッドから出ようとしたんだけど……


「ん?」


 足を横にスライドさせてみたが、いつまでも高さは変わらなかった。


 そこで俺はハッと目を開けた。

 気付いた。


「あれ、どこだここ」


 どうやら俺は今草むらの上で寝ているようだった。

 どこの草原かは分からない。

 見覚えがない。てか、なんで俺こんなところにいるんだ?


 うーん。


 自宅の近くに草原は無いし。

 そもそも俺は自宅のベッドの上で寝ていたはずだ。


 それがなんでこんなところに?


 少し考えてみたが、やはり答えは出なかった。

 と、その時だった。


「うぐっ……」


 頭痛。


「なんだ、これ」


 頭痛と共に頭に記憶のようなものが流れ込んできた。

 それは、どこかの誰か。

 少なくとも俺じゃない人間が剣を振っている様子であった。


「……あっ」


 その人物の名前を思い出した。


 アルマという少年だ。

 とあるゲームに出てくる1人の少年モブの名前。

 ちなみにこのモブだが、チュートリアルで死ぬことになる。


 どうしてこんな記憶を急に思い出したのかはすぐに分かった。


「俺、アルマに転生してんじゃん」


 やばい。

 このままいけば死ぬぞ俺。


「どうしよ……」


 この世界だが、ぶっちゃけ言うとダークファンタジーに分類される世界観だと思う。

 だって登場人物どんどん死んでいくからね。

 俺こと、アルマもそうだし。


「冗談じゃないぞ。死にたくないっ!」


 思い出せ。

 俺が死ぬことになる日のことを。


 てか、そもそも今どの時間軸なんだろう?


「そうだ、こういうときは服を見れば1発……(原作では物語の進行度で服装が違っていたからな)」


 チラッ。

 下に視線を向けた。

 モンスターと戦うのに使う装備を身につけてる。


(あっ)


 察した。

 もう、余裕が無い。


 たぶん、俺に残された時間1ヶ月とかそこらだと思う。


(残り1ヶ月でチュートリアルで死なないくらい強くならなくちゃいけない)


 それは中々ハードな事だけど。夏休みの宿題を残り三日くらいでどーーーんと出されたような気分。

 でも今の俺にはやるしかなかった。


 覚悟を決めた。

 それからもう少しこの世界のことを思い出す。


 俺が今いる場所だが、とある辺境の村。

 立地だがあまり良くない。


 なぜならばここは人間とモンスターの戦争の最前線の場所だからだ。


 俺がそんな場所にいる理由は簡単だ。

 この世界は国がモンスターと戦うための戦闘兵を育成しており、この村には国営の戦闘兵育成施設がある。

 俺はこの施設に所属しているのだ。

 施設で特訓して数年の時をかけて、モンスターと戦えるようになっていく……というのがこの施設の役目なんだが。

 うん、俺の命は数年もちませーん。戦闘兵の卵として死ぬんです。


 ちなみに一か月後のことだが。

 かなりつよつよなモンスターがこの村を襲ってくるのだ。(このモンスターはドラゴンであり、後に主人公の復讐相手になる)


 そして、俺たちは為す術もなく蹂躙されてしまう。

 ちなみに俺の死因だがドラゴンの殴り技(通称:猫パンチ)でワンパンされて死ぬ。

 俺はモンスターの強さを描くために、殺されるためだけに生まれてきた悲劇のモブなのだ。


(そんなの許せない)


 生まれてきた意味がモンスターに蹂躙されて、モンスターの戦闘力描写に使われることだなんて、そんなの許せない。

 俺だって生きてるんだ。


 死にたくない。


(今から死ぬ気で努力してチュートリアルをぶっ壊してやる。ドラゴンがなんだ、やってやるぞ俺は)


 俺はひとり、そんな決意を固めていた。


 そこに足音が聞こえてきた。


「こんなところにいたんだ、アルマ」


 女の子の声。

 聞こえた方向を見ると、俺の幼なじみのカレンという少女が立っていた。

 あ、ちなみに原作だとカレンだけはチュートリアルを生き残り、そのあと主人公くんに寝盗られます。(ちなみにこれは裏設定だが現段階で両思いらしい)


 寝盗られる経緯だけど。

 俺を失い絶望の底にいた幼なじみちゃんの心の隙間に、原作主人公が入り込むようにして急接近してくるのだ。(ちなみにカレンはいわゆる負けヒロイン。手を出されただけで本命は他にいる)


 やばすぎだろ性欲猿。

 俺の代わりにチュートリアルで死ね。人の幼なじみを勝手に奪うんじゃねぇ。


 あー、なんかムカムカしてきた。

 主人公に会ったら顔面にパンチねじ込んでやろうかな。


 なんてことを考えてるとカレンが口を開いた。


「みんな、昼食取ってるよ?」


 どうやら俺のことを探して呼びに来てくれたらしいけど。


「いらない」

「え?」


 驚いたように俺を見てくるカレン。


「どうしちゃったの?アルマ。食べないと強くなれないよ」

「違うよ。そんなことより特訓だ」

「え?」

「強くなるためには食べるよりも重要なことがある。それが特訓だ」


 ぱちぱち。

 大きくまばたきしてた。


「ちょっと特訓行ってくる」

「え?特訓なら明日から施設でするじゃない」

「自主練。んじゃあね」

「え?ちょっと?アルマぁ?」


 俺はカレンの止める声も無視して近くにあった森の中に向かっていくことにした。


 ちなみにだがこの施設での特訓は毎日6時間行われる事になっている。

 原作のアルマがどれだけ真面目に練習したのか知らないけど、俺は倍プッシュでいこうと思う。


 特訓時間は12時間だっ!

 倍の時間修行するんだから、単純計算で倍強くなれるはずだ。


 具体的な特訓内容だが、既に決めている。


 基本のステータス上げ。

 ゲーム全般に言えることだけど数字をあげて敵を殴っていれば大抵のことは解決する。この世界も同じだ。


 次に、こちらも大事なんだが。

 原作にはいわゆる【パリィ】システムがあった。

 敵の攻撃に合わせて攻撃ボタンを入力することで敵の攻撃を受け流すことができるシステムだ。

 これを使えばダメージ0で敵の攻撃をやり過ごすことが出来るというぶっ壊れシステム、なんだけど。


「優先事項を決めようか。最初にすべきなのはこの世界でもパリィが出来るかどうかの確認だな」


 これが出来るのか出来ないかで俺のこの人生の難易度は変わってくる。


「ふぅぅぅぅぅ……」


 頼むぅぅぅぅぅぅ!!!できてくれぇぇぇぇぇ!!!!






 ま、俺は慎重だからセカンドプランも用意してある。

 パリィが出来なかった時用の苦肉の策として、ね。


 まぁ、使わないことを祈るけど。


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