第2話 星屑の鯨
次の日、まだ太陽が昇る前に、今日の釣り場、オルボス湖に到着した。ん~っと伸びをするエミリー。車の中ではずっと眠っていた。
「遠かったねー。今日は何を釣るの?」
尋ねられたサントスは、
「そうだな…やっぱりトラウトやマス、あとは鯉とかかな?」
「へ~、やっぱり美味しいの?鯉って食べられるんだ」
「コラコラ、今回はキャッチ&リリースだよ。味じゃなくて釣りを楽しむのさ」
「なーんだ、まあいいけど」
少しエミリーの興が削がれたようだが、彼氏といるのはそれだけで楽しい。
「ほら、お弁当も作って来たから。つまんでつまんで」
サントスがバスケットを開くと、美味しそうな料理にエミリーは意気揚々。
「美味しそ~!!いやー私、良い彼氏持って、ホント幸せだわ~」
「さ、始めようか」
二人は竿の糸を投げ込み、二人の時間を楽しんだ。釣果はまずまず。やはり、仕事よりも趣味で釣る方が何倍も楽しかった。
夜の闇と朝の光が交わるその時、エミリーは空の異変に気付く。
「…あれ…流れ星かな…?」
「ん-?…それにしちゃ消えないな」
これは本当に星屑か?疑問を持つ二人。しかも、消えない流れ星。消えないどころか、数がどんどん増えている。
「ん?…んん!?」
流星群は魚の群れのように、空を埋め尽くしていた。当然、明らかに異常である。
「なあ、こっちに来てないか!?」
「きゃああっ!!」
そして、その流星群はオルボス湖に降り注いだ。
「何なんだ一体!?」
湖面は流星によって、幻想的な輝きを放ち、非現実な奇跡を起こしている。さらに、
ウロロロロロロ…。
「あ…あれは…」
「鯨…だよね?」
湖の中心から、星屑で形成された大きな鯨が、流星の光を纏いながら、湖面上に姿を現した。『星屑の鯨』は水浴びでもするように、湖面を泳ぐ。淡水だが、いいのだろうか。
「…綺麗」
「…ゆ…夢でも見てるのか、俺たちは?」
夢か現実かもわからないまま、二人はその優雅さに目を奪われていた。
その時、近所に住んでいると思われる老夫婦がこちらへとやって来た。そして、老父が鯨に語りかけた。
「長旅ご苦労だったね、シュレディンガー。怪我はないかい?ゆっくり休むといい」
シュレディンガーと呼ばれた鯨は、鳴くことも語ることも無かったが、何か意思を伝えたことだけは、サントスたちにも理解できた。その時、
「おや?お客さんかい?」
「あらあら」
隠れて様子を見ていたサントスたちに、老夫婦が気付いた。バツが悪い二人。老夫婦は構わず手を振りながら近づいてきた。
「あの、えーと…」
言葉に詰まるサントスたち。
「いやいや、無理なさらず。状況が分からんでしょう」
「あ…はい…」
老夫婦は何事も見透かしたかのような、澄んだ目線を送っている。
「なら、説明して差し上げましょう」
「どうぞ、我が家においでくださいな」
「は…はあ…」
老夫婦は優しく声をかけ、サントスたちを岸辺に建てられた家に招待した。
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