第2話 病室、夢にうなされて。
ー病室
目が覚めると病院だった。
腕から管が伸び透明の袋とつながっているのが見える。
白い天井を見つめため息を吐く。私は最後の試合をせずにここに運ばれてきた、つまり不戦敗。倒れて病院まで連れてこられた私を待ってくれるほどみんな暇ではないというのは私でも簡単に分かることだ。
そんなことをぼーっと考えていると病室の扉が開く。起き上がった私を見て勢いよく部屋に入ってくるのはあの兄だった。
「
「あ、おにいちゃん」
小さく声を漏らす私をみて安堵の涙を浮かべる。
「本当に良かった…もう起きないかと」
そんな大袈裟なことを言ってくる。過保護すぎてちょっと引くわ、なんて冗談めかして言ってみる。
「それだけ大事なんだよぉ」
ほんとにこの兄は情けない。わたしがちょっと立ち眩みしただけ、それだけでこんなに悲しんでくれるのだから情けないったらありゃしない。
「シスコン」
私は吐き捨てる。
「え、うざいか?そうか…気を付けるよ。」
しゅんと落ち込む兄を見る。基本不愛想で表情が動かない兄は私の事となるところころと表情を変える、その様はどこか可笑しくどこか愛おしい。愛おしいなんて本人には絶対言わないが、ふとそんなことを思ってしまう。
「冗談だよ、すぐ真に受けるんだから…」
と、落ち込む兄をなだめようとしたその時また私の意識は暗転した。
また、まただ。叫ぶ兄の声がこだまする。頭が痛い。
痛い。 頭が。
頭痛が……これは、頭痛か?
結局あのあと大会がどうなったかを兄に聞きそびれてしまった。
戦ってもいないのに負けて、かっこいい姿を兄に見せられず。
また意識を飛ばすことになるなんてこんなに悔しいことは無いんじゃないか。
そんな未練を残し、私は完全に視界を思考をシャットアウトさせられる。
…あぁ、本当に夢であって欲しいと願うばかりだ。
あれ?
思考が、シャットアウトされた筈だ。だからこんな思考を巡らせることすらできない筈で。ここでモノローグは途切れて別の誰かが物語を紡ぐ筈、そういう予定だ。
もっと言うならここでお兄ちゃん視点になって昏睡状態の私を助けるために色々手を打って、でも高校生の自分には何もできないと悟って、だから医者になるって決める。そんな展開が用意されていた。
その、筈だ。
兄が主人公になる事を放棄するわけがない。流れに逆らえない気弱な彼が、自分の考えを人に言わない軟弱な彼が、この流れを断ち切れるわけがない。一体、どうしたというのだろう。
お兄ちゃん!頑張って!!!私を助けようとして!
なんて言っても届きはしない。目の前の兄に私の言葉は届かない。発声できるほど私は元気では無いのだ。
ん?
目の前の兄?。私の眼前には私のベットに追いすがるように泣いているシスコンと。目をつぶり死んだように寝ている私がいた。
私は、それを見ていた。
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