太陽にあてられて
望月朔菜
第1話 夏、熱気にやられて。
夏休みだ!
私は叫んだ、いっぱい叫んだ、この夏休みに対して。
夏休みぃぃぃぃいいいいい!
叫んでも叫び足りない。私はこの夏を許さない、絶対。そもそも夏休みとはなんだという疑問を持つべきだ”夏”の”休み”である。そんな夏休みに私は暑い胴着を着て重い防具を着け剣を振り回している。正気の沙汰では無い、きっと私は狂っている。この狂気を、腕に声に乗せ大きくふり被る。息を深く吸い動悸を抑える、そして怒りを込めた一撃を一瞬の隙も見せず相手の頭に叩き込む。
「一本!」
私の叫び声の残響の中、審判の声が低く響く。面の向こう側に見えるのは、くやしさとどこか安心したような相手の表情だった。肩が上下し呼吸を整えている。私もきっとそうなっているだろう。高ぶった感情と身体を落ち着かせ、礼をし自陣に戻る。面を外し乱れた髪を整えると視界がぱっと開け体育館の全てが視界に入ってくる。武道をするために用意されたこの体育館の照度は結構高い。室内である筈が太陽光を直接浴びているかのようだ。
「やったな」
兄が清涼飲料水を手渡してくれる。過保護気味ではあるがわざわざ私の大会まで足を運んでくれる優しい兄だ。私は、渡されたスポーツドリンクを勢いよく飲み干すとありがと、と言って座り込む。
「あと一試合で優勝だな」
兄は嬉しそうに話しかけてくる。
「そうだね」
「嬉しくないのか?」
「いや無いわけじゃ無いけど…」
「兄ちゃんは嬉しいぞ、こんなに立派になって…」
若干涙目になりながら近づいてくる兄を軽くいなす。
「流石にキモいって」
「あ、ごめん」
勿論、嬉しくないなんてことは無い。でもこんな暑い日に貴重な夏休みの一日をつぶしてやる事でも無いと思う時だってある。
「あー兄ちゃん代わってよ…」
そこで私の意識は暗転した。叫ぶ兄の声がこだまする。頭が痛い。
次の試合…どうしようなんて頭によぎって完全に意識が途切れる。
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