第12話 魔法使い③

「あたしもね、考えていることがあるんだ──真面目な話なんだけど」


 魔法使いキューピーの目つきが変わる。女僧侶シスターカゴメは今度の今度こそは死亡フラグの気配を感じて慌ててめようとするが──


 しかし一歩遅かった。キューピーは宣言してしまったのである。


「あたし、この戦いが終わったら──自著伝を書こうと思うの。こう見えて子供の頃から日記を書いていてね、昔のことも記録には残しているんだ。色々あったな……無断で他人の農園でイチゴ狩りをしたり、酒蔵さかぐらからワインを大量に盗んだり、証拠隠滅のためにその酒蔵を焼き払ったり。甘酸あまずっぱい思い出がたくさんあるのよね。青春って感じ」


 カゴメはどん引きしながらも返事をした。


「あの、甘酸あまずっぱいのは盗んだイチゴの味だけだと思いますし、青春っていうより暗黒って感じですし、あと……キューピー様は魔法使いですわよね? 盗賊シーフじゃなくて」


「人聞きの悪いこと言わないでよ。悪いことばかりしていたわけじゃないし、少女らしく恋だってしていたのよ──五歳のときだけど」


「文字通りの少女ですわね」


「相手の顔も名前も性別すらも覚えていないけどね」


「人間だったかどうかすらも怪しいですわね──話を戻しますわ。自著伝の件ですけど、書くのはめておいた方が良いと存じますわ」


「その心は?」


貴女あなたのそれは……ただの犯罪記録にしかならないからですわ」


 キューピーは首を横に振った。


「大丈夫よ。不都合な箇所は書かないようにするから」


「それ、五歳の初恋以外に書くことないのでは……」

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