第2話 勇者②

 しばらくすると、また勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──ちょっと高めのシャンプーとリンスを使ってみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またも安堵の溜息ためいきをついてから──勇者の逆立った鉱物みたいに硬そうなトゲトゲヘアを見ながら返事をした。


「あなたには無意味よ」



***



 しばらくすると、またまた勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──泡風呂ってやつに入ってみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またまた安堵の溜息ためいきをついてから返事をした。


「そこらへんにある水たまりに入浴剤をぶち込んであたためてあげる。あなたにはそれで十分よ」



***



 しばらくすると、またまたまた勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──ジャンプーハットってやつを使ってみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またまたまた安堵の溜息ためいきをついてから──勇者の逆立った鉱物みたいに硬そうなトゲトゲヘアを見ながら返事をした。


「そもそもその頭ってどうやって洗うの? 素手で洗うと怪我しない?」



***



 しばらくすると、またまたまたまた勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──チタン製の耳かきってやつを使ってみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またまたまたまた安堵の溜息ためいきをついてから返事をした。


「チタン製は使いやすいけど取れるのは耳垢なの。そしてどれだけ耳垢を掃除したところで心の汚れまでは取り除くことができないのよ……」



***



 しばらくすると、またまたまたまたまた勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──全身脱毛に挑戦してみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またまたまたまたまた安堵の溜息ためいきをついてから返事をした。


「脱毛のケアってすごく大変なの。鼻毛のケアすらできてないあなたには絶対に無理よ」

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