第1話 勇者①

 勇者ハインツは言った。


「俺、この戦いが終わったら──コーヒーをブラックで飲んでみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、安堵の溜息ためいきをついてから返事をした。


「あなた、この前も『コーヒーをブラックで飲んでみる』とか言って一口でギブアップしていたじゃない。学習せずに失敗するのは、高いところで落雷魔法を使って自滅するときだけにしておきなさい」



***



 しばらくすると、また勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──『一人焼肉』ってところに行ってみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またも安堵の溜息ためいきをついてから返事をした


「明日の朝食を焼肉にしてあげるから、一人ぼっちで好きなだけ食べなさいよ」



***



 しばらくすると、またまた勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──1000Yenカット以外の店で散髪してみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またまた安堵の溜息ためいきをついてから返事をした


「あなたのそのトゲトゲの髪型、1000Yenカットだったんだ……」



***



 しばらくすると、またまたまた勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──マクドナルドゥ商店でチキンナゲットを買うとき、マスタードソースを選択してみようと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またまたまた安堵の溜息ためいきをついてから返事をした。


「むしろ今まで何故頼んでいないの?」



***



 しばらくすると、またまたまたまた勇者ハインツが口をひらいた。


「俺、この戦いが終わったら──片方だけになっている靴下たちを集めて、ちゃんとペアを揃えてやろうと思うんだ」


 なんだ、そんなことか。彼が死亡フラグを立てるのではないかと警戒していた魔法使いキューピーは、またまたまたまた安堵の溜息ためいきをついてから返事をした。


「そいつらの大半は未亡人だから作戦は困難を極めると思うわ」

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