絶対に死亡フラグを立ててはいけない決戦前夜の座談会

猫とホウキ

プロローグ

 崖下には森が広がり、その先に魔王の住まうバラドー城が見える。


 最終決戦前夜。焚き火を囲んでいるのは、これから魔王バラドーに挑む三人の冒険者たちである。


 三人とも毛布にくるまりながら体育座りをしている。交代で眠るべき状況だろうが、それができる心境でもなく、また、誰もが無言であった。


 元々は四人パーティであった。勇者ハインツ、魔法使いキューピー、僧侶カゴメ、そして戦士マクスウェル・エルフィン・シーザー。


 戦士マクスウェル・エルフィン・シーザーは、剣聖と称えられし大陸一の剣士であった。しかし彼は魔王城を目前に重大なミスを犯し──おそらくは死んだ。



***



 数刻前。


 魔王城への進路を塞ぐ火山に雨雲あまぐもの剣を投じ、道を切り開いた勇者一行。


 噴火は収まったが、それでも火山越えは危険な道のりである。あろうことか、そんな場所で戦士マクスウェル・エルフィン・シーザーは──


「俺、この戦いが終わったら、故郷の村に帰って幼馴染の女性にプロポーズするんだ」


 見事なまでに死亡フラグを立ててみせた。


 そしてその瞬間、謎の竜巻が発生し、彼だけが吹き飛ばされて火山の火口へと放り込まれた。


 雨雲あまぐもの剣で噴火を抑えているとはいえ、火口ではマグマが煮えたぎっている。残念ながら剣聖といえど命はないだろう。



***



 というわけで、パーティは三人になっていた。また、迂闊なことを言えば戦士マクスウェル・エルフィン・シーザーの二の舞になるのが目に見えているため、全員が黙っていることしかできなかった。


 しかしそんな状況で──我慢に耐えきれないといった様子で、勇者ハインツが口をひらく。そして女魔法使いキューピーと女僧侶シスターカゴメがめる間もなく、彼は話を始めてしまった。


「俺、この戦いが終わったら──」


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