第三話:1560年(永禄3年) 放浪の備忘録

木村伝と呼ばれるその日記には、彼の小田原から京への放浪の旅路をこの様に述べている。


「ただ一つの場所にとどまることを、我は好まない。よって、この小田原からの旅路を、我の軌跡として、この日記に残すものとする。ただ、明日の自分はどこで何をしているか、その様なものは知らず、明日の自分が何を思い、どこへ行くかを楽しみにして、出立前日の日記とする」


その行き先を知らぬ旅は、後に約1年続くこととなる。

その中でも特に人気の高い二つの町をしょうかいしよう。


まずは一つ目の行き先、仙台。

ここでの日記はこの様になっている。


「小田原を出てもう何日経っただろうか。我は今、仙台の城下にいる。小田原も活気があったが、ここも違った雰囲気がある。これが町ごとのちがいというのだろうか。なかなかに新鮮なものである。ずんだなる土産物をもらった。これは好みが分かれそうだ。私はそこまで好きではないと、そう感じたことを綴り、今日の日記を終える。」


そして二つ目が、(町というより国の話だが)安芸国を訪れた物である。

その時の日記がこちら


「『安芸の宮島、厳島』という様に、安芸国といえばやはり、厳島神社を訪れなくてはならないであろう。この神社は、かの平清盛公が日の本以外の国との貿易の際に、交通安全を祈って建立された社である。ここにきた時、多くの人がこの社に参拝に来ていた。やはりここは神聖な土地、我も参拝をしてきたことを記して、今日の日記を終えようと思う。」


という、諸国漫遊を楽しんでいることがわかるとおもう。京に入った後、数年でとある騒動に巻き込まれるとは、そしてそれがきっかけで全国に名を知られることになるとは、この頃の彼は知らないのである。

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