No.4
高校に入学して最初の夏休みを迎える少し前、僕らはカイトからヨウを紹介された。高い背丈と飄々とした掴みどころの無い空気感とは裏腹に、お調子者な一面もあったりとなかなか不思議な奴だった。後になって知った事だけど、カイトとヨウは僕らの地元の隣町在住だった。何とも世間は狭いものだ。
ヨウは小さい頃からピアノやギターを始め、既にその才能を見せ始めていたそうだ。中学時代には、駅前でギターの弾き語りもやっていたらしい。出会った時には既に作曲も始めていたというから驚きだ。いつか自分の曲を書きたいと思っていた僕にとって、ヨウの才能は妬ましくもあり、羨ましくもあり、憧れでもあった。ヨウには悩みなんて無いのだろう。そんな事さえ思っていた。
「ヨウの奴はさ、周りに悩みを言わなかったよな。」
俯いたまま、ぽつりとカイトが呟いた。その言葉は、僕に向けられているようであり、カイト自身にも向けられているようにも感じた。
「俺、お前らみたいに夢中になれるものなんて無くて、これといった才能だって無くて。今でもやりたい事あってもなれるかなんて分かんねぇし。そんな俺の話をヨウはいつも聞いてくれてたんだ。だけど、俺の話ばっかで、俺はヨウの話を殆ど聞いてこなかったって、最近になって気付いてさ。」
カイトはそこで言葉を切ると、顔を上げた。カイトと目が合う。
「ヨウはお前の事をずっと心配してたんだ。」
一瞬、カイトの目線が僕の左腕に移った。思わず、僕は隠すように左腕を右手で覆った。アームカバーで被われた左腕。それは僕の触れられたくない過去だ。
「この場所さ、前に一度、ヨウと来たんだ。」
懐かしそうにカイトが言った。突如話題が変わった事に、僕は戸惑った。そんな僕に構わずカイトは続ける。
「高校卒業した年のゴールデンウイークにさ、ヨウとバイクで来たんだよな。そん時は、運転してたのはヨウだけどな。」
「ヨウ、免許持ってたんだ。」
免許を持っていたなんて初聞きだ。僕は心底驚いた。
「俺も知らなかったんだよ。いつの間にか取ってたみたいでさ。」
可笑しそうにカイトは笑った。
「今日来た道は、ヨウと一緒に来た道なんだよ。」
そこでカイトは黙った。沈黙が訪れる。暫くして、カイトが再び口を開いた。
「ヨウの背中ってさ、意外とでかかったんだよ。後ろに乗ってる間、ずっとそんな事思ってた。何かさ、何処までも行けそうな気がしたんだよな。」
そのまま再びカイトは黙り込んだ。
僕は海を見た。水平線の彼方に、船が霞んでいた。
「この場所にまた来たいなって思ったんだよ。お前と来たいなって思った。」
僕はカイトを見た。カイトは小さく笑っていた。
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