No.5
「何か腹減ってきたな。」
そう言ってカイトが立ち上がる。気付けば、いつの間にか昼近くになっていた。
「そろそろ昼にする、良い時間だし。」
僕らは目に付いた店に入り、昼食を取った。その後は特にヨウの事には触れず、たわいも無い話をした。
「せっかくだから、ちょっとは島を見ていこうぜ。」
店を出ると、カイトはそう言って歩き出す。僕はカイトの後をついて回った。
僕らは特に何をするでもなく、適当に島内を歩き回った。土産物屋で商品を見てはしゃぎ、小腹が空けば目に付いた店で買い食いをした。何ともくだらない事だが、久々に楽しいと思えている事に、少なからず驚いていた。
「今日、お前とこの場所に来れて良かったわ。」
僕の心中を知ってから知らずか、カイトがそう言って笑った。
「そろそろ帰るか。」
だいぶ歩き回っていたのか、いつの間にか結構な時間が経っていた。僕らは駐車場に向かった。
来た道を戻るように走る。相変わらずバイクに慣れず、帰りも僕はカイトにしがみつくだけだった。カイトの背中は大きく、このまま何処まででも行ける気がした。明るい茶髪と、物怖じしない性格とは対照的に、カイトにはどこか影がある。その影は少し怖かったけど、どこか居心地が良かった。僕らは似た者同士だ。迷ったのなら、立ち止まって振り返れば良い。そうカイトは教えてくれている気がした。そうやって僕は歩いて行くんだろう。
唐突に僕を連れ出すカイトの強引さは、今の僕にとっては有り難かった。今回に関しては、フジにも感謝するべきか。
風を切る音に混じって、海鳴りが聞こえてきた。照り付ける日差しは、既に夏の気配を帯びていた。
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