No.3
再び走り始めて二時間もかからずに、少し先に海が見えてきた。奥には江ノ島と思しきものも見える。既に太陽の位置はだいぶ高くなり、初夏の日差しが容赦無く降り注いでいた。程なくして江の島大橋に差し掛かる。橋を渡る最中、潮の匂いが鼻を掠めた。島に入ると、カイトは島の奥の駐車場へとそのまま走った。駐車場はそれなりに広く、平日のためか空いていた。
「そこ行くぞ。」
バイクを停め、カイトは防波堤へと歩いていく。駐車場から階段が伸びていて、登った先は遊歩道のようになっていた。近くには幾つかのベンチもある。カイトはそのうちの一つに腰掛けた。僕もそれに倣う。
視線を前に向ければ、目前に海が広がっていた。カイトは無言で海を眺めている。その視線は海ではなく、どこか遠くを見ているようだった。心做しか、カイトの横顔には寂しさと懐かしさが混ざっているように見えた。
「ねえ、さっきヨウの事言ってたけど。」
僕は思い切ってヨウの話題を振った。正直、聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちがせめぎ合っている。それでも友人の現状を知りたいと思った。
カイトの肩が小さく震えたのを僕は見逃さなかった。それは僕の不安を更に大きくした。
「ああ、ヨウな。」
カイトが口を開いた。
「あいつ、死んだんだよ。」
ぽつりと、呟くようにカイトが答えた。その言葉は僕を混乱させるのに充分だった。
「え、死んだって、何で、」
漸く絞り出した声は、自分でも驚く程掠れていた。
「事故だよ。」
カイトが続けた。
「去年の十二月頭だった。雪の降った日で、飲酒運転で事故ったって。」
僕は更に混乱した。カイトの言葉は僕の頭をすり抜けていく。
「信じらんねぇだろ。俺もまだ信じらんねぇんだよ。」
カイトが僕に顔を向ける。その顔は寂しそうに、小さく笑っていた。
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