第2章

No.1

「天体観測しよう。」

唐突にフジが言い出した。フジの部屋に集まっていた僕らは、その一言に呆然と固まった。フジはそんな僕らを無視して望遠鏡を持ち出す。

「今からかよ。」

「当たり前だろ。」

半ば呆れ顔で尋ねるタケに、フジは事も無げに返した。タケは呆れたまま何か言いかけながらも、座っていたソファから腰を上げる。こうなってはフジに何を言っても無駄な事は、僕らは重々承知だった。

フジを先頭に、僕らは公園に着いた。早速フジは望遠鏡のセッティングを始める。時刻は午後九時を少し過ぎた頃だ。準備をするフジを横目に、僕はベンチに腰掛けると空を見上げた。四月の東京の空はどこかぼんやりと霞み、星の輪郭を隠しているように見えた。

フジが他のメンバーに星座やら何やらを説明してる声が聞こえてくる。その声を聞いていると、不意にある事が頭に蘇った。まだ地元に居た頃、もうすぐ二十歳になる誕生日を数日後に控えたある日の夜中、突然フジに誘われ、僕はメンバーと一緒にある場所へと向かった。僕らの地元には大きな川があり、行先はその川の土手だった。

「ここ、俺のとっておきの場所なんだ。」

楽しそうにフジは言い、空を見上げた。

「ここさ、星が良く見えるんだよ。」

フジの言葉に僕らも空を見上げた。視界の先に、暗い空に瞬く無数の星が散らばった。

「凄ぇな。」

「だろ。」

感嘆の声を漏らすタケに、フジが自慢げに返す。

僕は夜空に魅入っていた。僕らの地元は田舎だ。それでも、ここ数年で家は増え、夜道も明るい場所が増えた。星空もどこか遠くなった。だからまだ、星の瞬く場所が残っている事に心底驚いた。

「星も良いけど、僕は青空の方が良いかな。」

僅かに不満を含んだ声でリュウが言う。まるで拗ねた子供のような言い方だ。その言い方が可笑しくなり、僕らは笑い出した。

「笑わないでよ。」

不満そうにむくれたリュウが可笑しく、僕らは更に笑った。

「お前って子供っぽいよな。」

少し意地悪く笑うタケをリュウが睨み返す。

「また昼間に来ようか。」

まだ笑いの残るヒロがリュウを宥めるように言った。

「お前らこの場所の事、あんまり他の奴らに言うなよ。俺のとっておきの場所なんだからな。」

フジは真面目な顔で僕らに念を押してきた。

「お前らは特別だけどな。」

小さく笑って、フジはそう付け足した。

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