No.2
駅前の隅に座り、アコースティックギターを弾きながら歌う。四月上旬の今の時期には、真新しい制服を着た学生や、スーツに慣れていない会社員が多い。今日の路上ライブも例外ではなく、そんな観客を数人見かけた。
歌い終わると拍手が巻き起こる。僕はお辞儀をすると、片付けを始めた。ギターをケースに仕舞うと、ふと何の気なしに空を見上げる。東京の駅前は明るい。霞んだ暗い空に、僅かに星が瞬くのが見えた。不意に、上京して初めて迎えた春を思い出した。あの日も四月の上旬だった。天体観測をしようと突然言い出したフジに連れられて、みんなで公園に行った。あの時も、星は満足に見えなかった。
「あれが北極星だな。」
望遠鏡を覗きながらフジが説明をする。フジの指差す先には、ぼんやりと星が見えるだけだった。あれが北極星だったのが、別の星だったのか、今でも僕には分からない。
「見えないじゃん、北極星なんて。」
無意識に僕は呟いた。そんな自分に一瞬驚いた後に苦笑した。
そろそろ帰ろう。そう思い、僕は駅前を後にする。ふと目の前を桜の花びらが舞った。駅前には、大きな桜の木が一本ある。僕はこの桜の木が嫌いで好きだった。雨に曝され、風に吹かれ、夏の暑さや冬の寒さに耐え、春になれば変わらず満開の桜を咲かすこの木が嫌いだった。そして好きだった。
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