No.6
「上手くいかないなんて誰にだってあるだろ。お前の場合、人よりもそういった事に責任を感じるもんな。だから、思うように出来ない自分に対して自己嫌悪するんだろ、だけどそれが何だって言うんだよ。それで自分の生き方をねじ曲げる必要があるのか、」
堰を切ったように、フジは一気に喋った。今すぐここから逃げ出したかった。フジの言った事は、今まで僕が幾度となく辿り着いた事だ。今更そんな事、言われたくもない。
「生きづらいなら、そんなん捨てたって良いだろ。変な意地に拘る必要なんて…、」
「うるさいよ。」
フジの言葉を遮り、僕は吐き捨てた。自分の事だ。そんな事、僕が一番分かっている。
「フジに、僕の事なんか、分からないよ。」
フジみたいに、何でも要領良くこなす奴なんかには、きっと分からない。フジにだけは言われたくない事だった。今更、僕はフジと会った事を後悔した。僕はフジに何を求めたのだろう。優しくされたかったのか。同情されたかったのか。フジと会えば、こうなる事なんて分かりきっていたはずなのに。
「死にたいとか、言うなよ。」
唐突にフジは言う。何の事だか、僕には分からなかった。僕は死にたいだなんて、一言も言っていない。僕はフジの心中を計れずにいた。
「俺はお前とバンドがやりたいんだ。」
僕の目を真っ向から見て、フジは言った。
「俺はお前の歌が好きなんだ。」
居たたまれなくなった僕は、帰ると一言告げ、居酒屋を出た。フジは引き止める事はしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます