No.3
公園のベンチに腰掛け、ぼんやりと周りを見渡した。昨日、僕は逃げるようにアパートへ帰った。
フジはメンバーの中で一番仲が良かった奴だ。時に意見が食い違い、衝突し合う事もあった。殴り合いの喧嘩だってした。互いに譲れないものがあったからこそであり、一番に理解し合っていたからこそでもあった。フジは他のメンバー同様、何度か連絡をくれる。フジからの連絡は、他のメンバーと違い、僕を後ろめたい気持ちにさせる。あんなところ、一番見られたくなかった。
「あれ、」
不意に後ろから声が聞こえた。少し舌っ足らずな声。振り返った先には。
「ああ、やっぱり。」
長い前髪から覗く左目が笑った。そこに居たのはリュウだった。
「久しぶり、元気だった、」
僕の返事も聞かず、リュウは僕の隣に腰掛けた。少し長めのストレートな黒髪。その黒髪に隠れた右目と、黒髪の隙間から覗く笑う左目。色白の肌に中性的な顔立ち。黒を基調とした、少し緩めの服。肩に背負ったベース。何も変わってないな。
「変わってないね。あ、でもちょっと暗くなったかも。」
こういう事を遠慮無く言ってくる。それでも嫌な気分にならないのは、リュウが嫌な奴ではない事を知っているから。バンドをやっていた時も、よく「暗い」とか、「座敷童みたい」とか言いながら、僕をからかった。その度に、僕はリュウの頭を小突いた。
「フジから聞いたよ、路上ライブやってるんだって、」
その一言に、僕は舌打ちしたいのを辛うじて堪えた。
「フジ、言ってたよ。何だか素直じゃなくなったって。」
いつもだったら、リュウのはっきりと物言うこの性格に救われていた。だけど、今はそれが鬱陶しい。
「何かあった、だったら話してよ。」
「リュウには関係ないよ。」
思わず僕は言い放った。
「関係あるでしょ。だって仲間だよ。」
「仲間」という言葉に、一瞬固まる。そう言ってくれた事が、今の僕には嬉しかった。それ以上に、悲しくて悔しかった。
「帰る。」
吐き捨てるように言い放つと、僕はリュウに背を向けた。リュウの制止する声も聞かず、僕は歩き出す。
「僕、君の歌好きだよ。」
リュウの一言に、一瞬足が止まった。その、取って付けた言い訳のような一言に、思わず小さく笑った。
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