No.2
駅から徒歩約十分の安アパート。ここが今の僕の城だ。
今日はバイトがないから路上ライブが出来る。バンドは辞めたくせに未だにこんな事をやっているのは、やっぱり諦めきれていないという事なのだろうか。我ながら笑えてくる。今の僕をメンバーが見たら、どう思うのだろう。そんな事を思っている内に、辺りは夕闇が終わりかける時間になっていた。僕はアコースティックギターが入ったケースを持つと、狭い部屋を出た。
アパートの目の前にある自販機で缶コーヒーを買う。いつからか、これが路上ライブ前の日課になっていた。ステージは駅前の片隅。歌い出す頃には誰一人居ないけど、一曲二曲と進む内に、一人また一人と増えていく。「生きていれば良い事がある」とか、「頑張れば未来はきっと明るい」とか、我ながら苦笑いするような内容ばかりを歌う。そんなの自分が一番良く分かっている。頑張ったって、何したって、どうにもならない事だってあるんだ。あんなにも信じていた未来だって、今はただの絶望でしかない。いつの間にか僕は、口先だけの明るい事しか歌えなくなっていた。
歌い終わると小さな拍手が巻き起こる。僕は小さくお辞儀をした。人波が流れていく。僕は帰り支度をしながら、その波を眺めていた。ふと、観客の一人に目が止まった。僕は声も出なくなった。そこに居たのは、バンドメンバーの一人であった、フジだった。
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