縁日
縁日で買った木を、今でも大切に育てているのだそうです。あの家のおばあさんが、昨年の縁日で買ってきたあの木です。何の木なのか尋ねてみたのですが、おばあさんは分からないと、困ったように笑ったのを今でも覚えております。旦那様が生前育てていた木だということだけを話されておりました。
おばあさんはその木を、それは大切に育てていました。散歩でおばあさんの家の前を毎日通るのですが、その時必ずおばあさんは木に水をやっていました。枝が伸びれば剪定をしておりました。少々、何かに取り憑かれているようにも見えるほど、とても熱心に面倒を見ていたのであります。
そのおばあさんですが、先月から全く姿が見えないのです。村人総出で何日も探したのですが、一向に見つからなかったのです。おばあさんには息子家族が居たのですが、彼らは遠方の海辺の町に住んでおり、あの家は今では空き家になっております。
あの木は、今でもおばあさんの家の庭にあります。今では村人が順番に世話をしています。たまに息子家族が帰ってきては、面倒を見ています。
今年も縁日の時期が近付いてきました。北風が吹き始め、肌寒さを感じる季節になりました。あの木は風を受けて枝を揺らします。枝が擦れる度に音を立て、それはまるで子供の笑い声のようにも聞こえるのでありました。
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