第5話 ヴィーナス・メモリーの一員

私の家は...貧乏とかでは無いのだが。

だけど少し規律や戒律が厳しい家庭である感じがする。

だからこそ私がアイドルになるとかなったら父親に大反対された。

『お前みたいな根暗の馬鹿がアイドルになれる訳が無い。偶像を舐めるな』という感じで怒号を交えて、だ。


勿論ショックだったけど。

私は、確かにその通りだ、とも思ってしまった。

だから私はアイドルを半分諦めていた。

するとその私に手を指し伸ばしてくれた女の子が居た。


それが...綺羅ちゃんだった。


今の私が有るのは彼女のお陰だと思う。

だけど私なんかが仲良くなって良いとは正直思わない。

ただそれだけの理由で...、と思ってしまう部分もあるから、だ。


家に帰って来てから私は家に入る。

それから歩いていると母親が厳しい目をして立っていた。

多分、私の成績の事だろうけど。

だけど今回も前回も頑張ったのだが。

どういう事なのだろう。


「前回より10点、点数が下がっている」

「...うん」

「アイドル辞めさせる事になる。この点数じゃさせられない」

「...今回は関数が難しかった。ごめんなさい」


私はそう言いながら頭を下げる。

すると「全く。アイドルなんて直ぐに辞めるべきね。...成績もそうだけど...」と言い淀む。

私はその言葉に「...」となってから考え込む。

話している通りだ。


私は一体、何をしているのだろうか。


「お母さん」

「...?...どうしたの?伊豆奈」

「お姉ちゃんは必死に頑張っている」

「...!」

「私、お姉ちゃんの姿で救われたの。もう少しだけお姉ちゃんを自由にさせてあげて」

「...伊豆奈。それは分かるわ。...だけど私は本気で将来を心配しているの。お姉ちゃんの事もそうだけど」


そう言いながら母親は沈黙する。

私はその姿に目線を逸らしながら「ゴメンなさい」としか言えなかった。

何というか父親は私みたいなチャラチャラしたのは好きでない。

だけど母親はそんな父親を説得した。

その恩もあるから。


「...私、もっと頑張る」

「...」

「頑張って仕事も勉強も両立させる」

「...分かったわ。もう少しだけ待つから」


そして私は伊豆奈を見る。

伊豆奈は笑みを浮かべて私を見ていた。

私はその姿を見ながら苦笑する。

それから私は部屋に戻ろうとした時。

電話が掛かってきた。



「...綺羅ちゃん?」

『もしもし。マキちゃん?』


何の用事だろうか。

仕事以外、プライベートで電話なんて珍しい。

そう思いながら「...綺羅ちゃん。どうしたの?」と聞いてみる。

すると綺羅ちゃんは『私の知り合いに会ってくれない?』とニコニコしながらな感じで言ってくる。


「え?...知り合い?...誰なの?」

『名前は佐竹耕くん。...私のとても大切な人なの』

「...何でまたそうなるの?」

『彼なら貴方を救えるから』

「その自信は...何処から」

『うん。私が救ってもらったからね。...それで自信がある』


私は「!」となってから「...それって綺羅ちゃん...救ってもらったの?」と話した。

すると綺羅ちゃんは『そう。だからきっとマキちゃんも今居る所から救ってもらえるって思って。...というか私が紹介したいだけだけどね』と苦笑気味に話した。

その言葉に「...でも私なんかが貴方の大切な人に会っても...」となる。


『マキちゃん。私ね』

「...?」

『世界を変えたいの』

「...世界を変えたい?どういう事?」

『私の...マキちゃん達と私の世界を変えたい。仲良くなりたい』

「...!」

『だから私、その為に努力したいんだ』


そう言われて私の眼前に青空が広がった。

私はその言葉に涙が溢れる。

それから「諦めてなかったんだね...」と呟く。

すると綺羅ちゃんは「当然」と答えた。


「綺羅ちゃんは優しいね...」

『私は...昔に戻りたく無いだけだよ』

「...知ってる。綺羅ちゃんの過去も何もかもを」

『そっか。知っているっけ?』

「うん。私、知ってる」


そう。

綺羅ちゃんが落ち込んでいた時も。

笑顔の時も、泣いている時も。

全部知っている。

だからこそ私は、と思っていたけど。

手が伸びなかった。


「...私を助けて。綺羅ちゃん」

『そうだね。...必ず助ける』

「...有難う。綺羅ちゃん...」


そして私は嗚咽を漏らして号泣した。

それから泣いて泣いてを繰り返し。

そのまま電話を切ってから立ち上がる。

私は...こんなんでもヴィーナス・メモリーの一員である。

だとするなら私にできる事は。


そう思いながら私は部屋から出てからそのままリビングに向かう。

それから私は料理をしている母親に向いた。

母親は厳しい顔で私を見る。

そんな母親に私は「お母さん」と告げた。


「...何。マキ」

「私は...頑張って今を生きる」

「...」

「...私はアイドルになって良かったって思いたい」


すると母親は厳しい顔からいきなり顔をほころばせた。

それから「...何かあったのね」と味見をしている。

私は強い顔と意思で「うん」と告げる。

母親は「そう。...私は...貴方を応援は出来ない。だけど...貴方を見守っているわ」と言ってきた。


「...先程と顔が違う。...もう大丈夫ね」

「...お母さん...」

「...私はお父さんの事もあるから。アイドル応援は出来ない。だけど...貴方が頑張る姿は応援しているから」

「...有難う」


そして私は踵を返した。

それから私は家を出てから近所のコンビニに向かう。

気分転換してから立ち向かおう。

そう思いながら、だ。

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