第2話 有名になるという事
☆
そもそもアイドルなんてどうでも良いのだけど。
だけどこうくんがアイドルが好きって言うからここまでになっただけ。
正直、売れるとかお金とかそういうのには興味が無い。
ただこうくんに観てもらいたかった。
それだけだったけど。
まさか麻疹に感染した高熱で...記憶が無くなっているとは思わなかった。
私は棒アイスを食べながらこうくんと一緒に歩く。
こうくんも棒アイスを食べている。
それから河川敷を歩く。
「ねえ。こうくん」
「...?...何?」
「私、こうくんにもう一度、惚れてもらう為に頑張るね」
「...ほれ!?」
「そう。私が有名アイドルになったのはこうくんが見ているからだよ。だから有名になった。...麻疹で記憶が無くなったんだよね。だったら私、もう一度こうくんを惚れさせる」
「...綺羅...」
私は何の為に有名になったのか分からなくなっている。
そんな事にはさせない。
そう思いながら私は意を決してから顔を上げる。
それからこうくんを見る。
「私を救ってくれたこうくんを今度は私が助ける番だね」
「...俺は恩義すらも忘れているのに。...それで良いのか」
「貴方が忘れていても私は覚えている。それで良いんじゃないかな」
「...」
こうくんは悩む。
私はその様子を見つつ笑みを浮かべる。
そして棒アイスの棒を見る。
当たりと書かれていた。
私は柔和になりながらこうくんを見る。
「ねえ。こうくん」
「...ああ」
「私ね。偶然、かつての同級生に会ってから...貴方の行方を知った」
「...うん」
「...これも運命だと思う」
「...」
「私は絶対に諦めないよ」と言いながらこうくんを見る。
こうくんは「...」と考えながら見てきた。
そして歩いていると。
「やあ」と声がしてきた。
それは...新聞記者の山辺だった。
サングラスの男。
私はゾッとしてから身を退く。
県外から何でこの場所に居るのか分からない。
そう思いながら、だ。
「...何ですか。山辺さん」
「もしかして不倫なの?アハハ」
「...」
ここから2県先の場所からわざわざ新幹線とかに乗って私を追って来たのかコイツ。
そう思いながら居ると「誰だ?」とその嘲笑う男を訝しげに見るこうくん。
私は「...私をストーカーしている新聞記者」と答えた。
山辺は「違うよ。正式ルートで彼女を有名にする為だけに追っている平凡な新聞記者だ」と笑顔になる。
「...どの口が言っているんですか」
「いやいや。突然、ヴィ―ナス・メモリーのリーダーが事務所から居なくなったって言うじゃん?だから追っかけて来たんだし」
「...」
「そしたら大スクープじゃないか」
「相当に汚い真似をしますね」
すると。
こうくんが「...ウザいな」と山辺を警戒しながら見た。
山辺は「ウザいとか酷いね。...君も新聞に載る予定なんだから大人しくして」とニコッとする。
私は怒りが満ちた。
コイツ。
「...あくまで彼女はそういう報道に慣れてない」
「...そうなんだね。...君達結構前から知り合いの様だけど」
「帰れ。今なら見逃してやる」
「帰らないよー」
こうくんは「...はぁ」と言いながらそのまま私の手を握る。
それから「行こうか」と私の手を優しく握ってから歩き出す。
だが山辺がしつこく追って来た。
するとその事にこうくんは右手でいきなり裏拳を使ってから山辺のぶら下げているカメラを思いっきり粉砕した。
まさかの木っ端みじんの粉々。
破壊力に山辺も口をあんぐり開けて唖然としている。
「...しつこい奴は嫌いなんだ。俺は。...前からな」
「お、お前!カメラを壊したな!ふざけるな!」
「ふざけているのはお前だ。...見逃してやるって言ったよな。3秒以内に消えないと今度はお前の肋骨が粉砕されるぞ。俺は空手を習っていてな。初段だが」
「...!」
山辺は「お、覚えていろ!」とそのまま逃げた。
近くのコインパーキングに入ってから車に乗って去って行った。
私は「...こうくん?何でそんなに強いの?そんな強く無かったよね?前」と聞く。
するとこうくんは「ああ。...女性を守る為ならこれぐらい強くないと」と平然と答えながらニコッとした。
「...知り合いの女子が不良に襲われた時も助けれなかったから空手を習いに近所の空手道場に通った。強くなった」
「...知り合いの女子?」
「まあ今は...まあそれは置いておいて。お前を守れて良かったよ」
そう言いながらこうくんは笑顔になる。
私はこうくんの手の甲を見る。
流石に固かったのか出血していた。
私はハンカチを取り出す。
「...もう無理はしないで」
「綺羅...?」
「こうくんがこんなに傷付く必要は無い」
「...」
私はそう言いながらも過去を思い出す。
リスカを繰り返したあの時代を。
自殺をしようとした過去を。
強くなったんだな。
こうくんは。
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