草花は知っている ~霊花の首飾り

 お土産に花屋へ寄った俺たちは、押し売りまがいの子どもと出会って、あろうことかお金を取られてしまっていた。というかなんで土産を最初に買おうとしてるんだよ、買い物が終わってからでもいいだろ。はあ、悪いことが起こるとどうしても思考がマイナスに寄るな。


 そう落ち込むことはないわ。結局ジーナちゃんはそれはもう恐ろしいぐらいに叱られていたけど、最後は料金を負けてくれることになったじゃない。ずっと謝り続けるお父さんを見て、あなたも申しわけなくなったんじゃない?


 親子でグルじゃなかったとしたら驚くぐらいだ。いやまあ、あの様子だとジーナの悪知恵が働いたんだろう。そう信じるよ。


「ふーん、ディジー様ってそうやって2人でお話してるんだ」

「……ジーナは俺の心の声でもわかるのか?」

「いいえ、全然。でも、顔とか動きとか、お花が教えてくれるからわかるよ。今お喋りしてるーって」


 人をよく見ているようだ。あの後店を離れる際、ジーナは専属占い師だからと俺たちの散歩についてこようとした。もちろん止めたんだが、何かとつけては契約だからと話を聞かなかった。


「まさか家までついてくる気じゃないだろうな」

「そこまではしないよ。でも、町に来たら絶対あたしに会いに来てね。あたしは花屋でお手伝いしてるから」

「学校は? そういうのはないのか?」

「小学校はもう卒業したよ。でも進学はしなかったの。お父さんを手伝いたくって」


 少なくとも、家族に対しての気持ちは本物だったのだろうか。それと同じくらい、お小遣いが欲しかったのかもしれないが。


「小さなご友人が増えましたわね。ハナは賑やかで楽しいです」

「というかハナはなんで受け入れてるんだ、不敬とかなんだかで注意してくれるんじゃないのか」

「確かに貴族に対していささか言葉遣いが荒いですが、ディジー様はずっと笑っていましたから。きっとお許しになるとハナは思っていましたわ」


 どいつもこいつも、俺のことをよく見てやがる。はあ、とりあえず買い物を続けるか。

 

 たくさんお喋りしたし、軽く何か食べにいかない? 久々の外だし、色んなものを味わいたいの。


 なら、適当に探しに行くか。

 ジーナとハナに伝えて、屋台の中からひとつを選んで食べることになった。ジーナとディジーは好みが似ているようで、何やら棒についた揚げ物をご所望のようだ。家から持ってきた活動資金で支払って、外に用意された飲食スペースに持ち込んだ。揚げたての熱気が指に触れ、味の期待感を煽る。食べ歩きは性に合わないので、座れる場所とテーブルがあって助かったな。


「たまにはこういう脂っこいものもいいですわね」

「俺にはやっぱり濃いな。もう少しさっぱりしたのが好みだ」

「ディジー様、お味はお2人ともわかるのでしょうか?」

「今は多分、指輪のおかげで味覚は共有できてるよ。俺と感想は違うだろうけどな」


 私はこういう揚げ物は結構好きよ。上品さはないけれど、この手の濃い味付けは家じゃ中々食べられないし、出来立てだから食感もいいしね。


「ディジーさんもご満足ってところか」

「ねえねえ、食べてるところ悪いんだけどさ。あたしまだあなたのこと占ってないんだよね」

「占い? ああ、確かに……そういえば、植物と会話できるのは別に嘘じゃないんだったか」

「嘘なんて失礼ね。あたしは正真正銘の花占い師よ。ほら、何を占ってほしい?」


 ジーナは持っていたカバンから小さな花を取り出し、こちらの返答を待っている。手に持っている花は加工されているように見えるが、声を聞く分には問題ないのだろうか。そこまで遺物の効果に詳しくはないし、占いの内容を考えるか。1回につきいくらか取られるし、慎重に考えよう。


 恋愛運も占えるのかしら。私にこれからどんな出会いがあるか、とっても気になってるの。キラキラした王子様みたいな貴族の方とお知り合いになりたいわね。カッコイイ俺様系も捨てがたいけど、孤高なクール系もいい感じ。それこそ、小説とか、漫画みたいな!


 えらく浮かれてるな。ここは普通に、身体を取り戻せるかどうか、とかでいいだろ? 俺としては近場に遺物がないか探してほしいところだが……これは個人的な願望だし却下。あと、そういう出会いはあくまで創作の中で誇張された表現だからな。お前の暇つぶしのために結構な本を見てきたが、どれもこれも一時の感情の揺れ幅を描いた物語ばかり。生きていくうえで恋がそれほどまでに大事だとはとうてい思えないし――


「ねえ、考えこんじゃったけど決まりそう?」

「恋愛運で」


 おい!


「あはは、やっぱりディジー様もそういうの気になるんだね。いいよ、聞いてみるね」


 ジーナは手に持った花をじっと見つめると、うんうんと頷きながら少しの間黙った。

 全く、人が真面目に考えてる間に勝手に喋りやがって。占いだってただじゃないんだ、有益になるかはともかく、今後のためにだな。


 あなたは考えすぎなのよ。記憶を失くしたって言ってたけど、ほんとは昔から価値観が全く変わってないんじゃない? ちゃんと年頃の子爵令嬢として考え方を改善していってほしいところね。


「結果は……うーんと、近いうちに出会いがあるかも」

「本当!? どんな人かわかる!?」

「全然だめ。令嬢のディジー様だけだったらわかったかもしれないけど、もう1人のディジー様のせいで全部出会いの縁が見えなくなっちゃってる」

「……それって、私の魂が2つのうちは期待できないってこと?」

「そうね。あたしの占いは植物たちがずっと集めてきた知恵と声を聞いて結果を出してるんだけど、もう1人のディジー様のことは全然わからないの。あたしも気になるし、もうちょっと占ってみよっか」


 おい、俺のことをこんなことで恨むんじゃないぞ。一応俺がいなかったらお前死んでたんだからな。俺が出ていけば解決する話なんだ、長い目で見れば別に大した問題じゃないだろ?


 まあ、そうね。ひとまずは私の身体を取り戻すことが先決って感じかしら。でも、私も色々気になるから、もう少し話を聞いてみましょ。


「えーっと、やっぱり聞いたことない声がする。孤独、とり残される、寂しいイメージがするって。ごめんね、悪いことばっかりで。普段はこうじゃないんだけど」

「別にいいさ。植物からそれだけわかるなら、あとひとつぐらいイメージが掴めたんじゃないか?」

「うん。あなたのこと、んだって。すごく……悲しそうな声が、あなたから聞こえるみたい。でも同時に、それでいいんだって満足してるの」

「中々面白いな、花占いってのは。満足は確かにそうだが、俺は別に悲しくなんかないさ。時間が経てば誰だって忘れることがあるだけ。そうだろ? 現に俺も、何が悲しいかなんて忘れちまった」

「謎が多くて不思議な人だね、ディジー様って。結構色んな人を占ったけど、あなたみたいなのは初めて」


 結構たくさん言われてたみたいだけど、これは当たっているの? だとすると、私達にまだ話してないことがあるのかしら。子どものやることだと思ってたけど、想像より本格的な占いなのね。


 当たっているのか外れているのか、俺にはさっぱりだ。ただ、昔の時代からやってきた魂だし、誰も俺のことを知らないのは本当だろう。


「あ、あなたって何か探し物をしてるのね。それもたくさん。それぐらいならみんな知ってるかも。どれどれ……」

「どんどん料金が増えないか不安なんだが」

「1回分に負けといてあげる。1番近いのは、この町の西にある骨董品屋さんにあるかもって」

「そうか。気になるし、早速行ってみよう。おっと、俺が仕切ってどうするんだってな。まあ、目的はあった方がいいだろ」

「毎度あり! お散歩が終わったらまとめて会計するからね」


 ジーナはそういうと、にこにことしながら席を立った。ああ、やっぱりついてくるのか。というかずっとくっついている気じゃないだろうな。

 ハナも含めて3人、いや4人か。騒がしい散歩になったものだ。ジーナからハナへ店の場所を話すと、案内してくれることになった。占い以外の雑談をしながら、骨董品屋へ歩いていこう。

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