第2話 稽古だの次もここで待ってるだの言われても困ります。私、異世界転生して相撲の稽古をしなければいけないんでしょうか。


  【GAME START】


 ゲーム開始のアナウンスが流れる。


 十字キーで、相手に近づき、Aボタンを押す。

 張り手が出る。

 相手の頬に、張り手が決まり、相手がひるむ。

 そのまま、Bボタンを押すと、突っ張りが相手の顎に入る。

 相手は後方にノックバックし、土俵外に近づいていく。

 この次は、分かる。

 Aボタンを連打だ。

 私は、Aボタンを連打する。

 しかし、ただ連打するだけじゃない。

 タイミングと連打能力の両方が必要ね。

 突っ張り動作が、終わりきる直前で、Bボタンをおす事で、突っ張り動作が中断キャンセルされ、

逆の手で突っ張り動作が行われる。

 この中断キャンセルが、何度も続けられるとは思わない。

 1回目よりも、のけ反りフレームが減少していた。

 予想通り、2回目の突っ張りタイミングを失敗して、突っ張り動作が完全に終了してしまう。


 女神のような何かは、待ち構えていたように、予測していたように、掬い投げの動作に入る。

 突っ張りの食らい判定中に、事前入力していた!?


 女神のような何かは、私の大きく振り出された左の腕に腕をいれ、掬い投げの動作を進める。


 私は、成すすべもなく、掬い投げを決められる。

 私は、土俵に倒れていた。


 【Mika Lose】


  アナウンスが、私の敗北を告げる。


 もう、これ以上何も言う事はなかった。


 私は、立ち上がり、扉の方に向かった。


 「稽古をつみなさい」

 「私は、次もここで待っているわ」


 稽古だの次だの言われても困ります。

 私、異世界転生して相撲の稽古をしなければいけないんでしょうか。

 私、異世界転生してまで相撲したいわけじゃないんですけど。


 そんな事を考えながら、私は扉をくぐった。


 体が流されていく。


 消えていた記憶が戻って、また消えていく。

 

 ああ、私は特別な存在じゃなかったのね。

 きっと私は、異世界転生しても、特別な存在には。

 英雄にはなれないのかもしれない。

 それでも、私が思い出したのは。

 最後までコントローラーを握っていたという、女神のような何かに告げられた情報ではない。

 最後まで、コントローラーを握った事へ、後悔がなかった事。

 そうよ。私は、コントローラーを握って死んだ事に、後悔なんてない。

 なら、異世界転生しても、私は、また、コントローラーを握れる。

 最後まで。



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