4
双子の弟の様子がへんだと、シルフィは思った。
ここ最近、ずっとそうである。
起きた時に住居にいなくて、何故か川に行っていた日もあれば、「呼びかけて」も返事がない日が連続してあったり、何かを考えるように、ぼんやりしたりする日もある。
今朝も、白岩漬けの魚を煮た器の前で、ぼんやりとしていたシルファに、声をかけたとたん、
『えっ、あっ!?』
はっと我に返ったシルファは、その瞬間、注ごうとして持っていた器を、ガッチャンと落としてしまった。
幸い中には何も入っておらず、割れもしなかったので、シルフィは器を拾い上げながら、『だいじょうぶ?』と、聞いてみたが、
『あ、ああ』と答える双子の弟の様子は、はっきり言っておかしかった。
『私はいいんだけど。でも、薬草をまちがって渡さないようにしないといけないんだから、しっかりしないと』
それこそ、部族の者達の命がかかっているのだ。
『……そうだね』
と頷きながら、シルファは言った。
しかし、どこかぼんやりとしているのだ。
まるで、風と「同化」している時のようだった。
だが、その時のシルファは完全に意識を失うので、それとは、また違う。
さらにおかしいのは、それだけではなかった。
『今日も洞窟に行くの?』
と聞くと、『あ、うん……』と、その返事も歯切れが悪い。
道具作りや、物事をじっくり見ることが好きなシルファは、泉の近くにある洞窟に行くのを、とても楽しみにしていた。
ジャス達が器を作る土を分けてもらい、それを伸ばして、そこに集めた植物の絵や、天空の陽の動き、動物達の体の部位の絵を描いていた。
それらは、ほとんど洞窟に置いてあった。
住居に置いていたら、眠る場所がなくなってしまうからだ。
なんせ、シルファが今まで作ったそれらの数は、はんぱではない。
さらに、道具を作るためにと、持ち帰ってくる、石やら木やら植物のつるやら、そういったものも、山ほどあるのだ。
はっきり言って、それらを持ち込まれたら、人が住めなくなってしまう。
シルファもそのことをわかっているので、父が以前によく使っていた、集落からは少し離れた、しかし部族の者達はあまり近づかない、泉の近くの洞窟に、それらの物達を置くようにしていた。
シルフィにとっては何の意味もないそれらは、シルファにとっては大切な物であり、それゆえに、彼は、洞窟で色々なことをするのを、好んでいた。
シルフィが覚えている限り、嫌そうな顔をした日など、ないと言っていい。
だが、今朝に限って、何と言うか……とても、つらそうな表情をしていた。
実はシルファと「話せなかった」日に、ヤヌスにも相談していたのだ。
部族の長でもあるあの幼馴染は、しかし言葉を濁し、『しばらく様子を見よう』と言った。
そんな、と詰め寄る自分に、『話したくないのかも、な』と、考え込むような表情をしていた。
彼のそんな表情を見るのも、めずらしことだった。
それだけシルファのことを、心配してくれているのだ。
だが、しかし。
シルフィの中に、「待つ」という言葉は、あまり存在していなかった。
必要な時は、待つこともできる。
けれど、事は自分の双子の弟のことなのだ。
それでも念のため、少しは待ってみた。
だが、日が過ぎるごとに、暗い表情になっていく弟を見て、もうこれ以上は待てなかった。
心当たりは、あった。シルファがあんなふうになったのは、あの男と出会ってからだ。
そうしてその心当たりの男と会うために、シルフィは今、湖畔の部族が住む集落へと向かっていた。
集落へは、協力して狩りを行う時に、一度その近くを通り過ぎている。
肝心の住居については、自分で探せる自信があった。
「神の加護を受けた者」としての恩恵を、ほとんど身体能力に授けられたと言われているシルフィだが、狙った獲物を見つける感の良さは、かなりのものだった。
それに、もし見つけられなかった時は、人に聞けばいいのだ。
「おい、お前」
と、その時だった。
シルフィは、ふいにそう呼び止められた。
考え事をしていた間に、どうやら湖畔の部族の集落に到着したらしい。
そして、自分を呼び止めたのは、成人直後らしい若い男だった。
「何しに来たっ」
住居が幾つか立ち並ぶ中、その男はシルフィの前に立ち塞がり、大きな声で怒鳴った。
何か妙に敵意を持たれているようにも感じたが、シルフィとて、やたらむやみに敵対したいのではない。
確かに、幼い頃は「女のくせにっ」と言い放つ男の子達を黙らせるために、力を使ったものだが、その都度父には怒られた。
『それで、人はお前を認めてくれると思うのか?』と。
その通りだった。
自分の力を見せびらかしても、人は認めなどしない。
力が怖くて従っても、いつ裏切るかわからない。
だから、シルフィは、敵意を向けられても、まずは冷静に対応するようにはしていた。
「セアドに会いに来たんだけど、セアドの住んでいるところはどこ?」
本当にごく普通の口調でその男に聞いたのだが、男の顔は、見る間に真っ赤になった。
「お前みたいな奴に、セアドが会うかっ。とっとと帰れ!」
だが、相手にそのつもりがないようである。
うーんとシルフィは、がしがしと頭を掻いた。
すると、その怒鳴り声に反応して、ワンワンと、犬の鳴く声が近くで聞こえてくる。
やれやれと思いながら、シルフィは、ポーンと軽く地面を蹴った。
その瞬間、シルフィの体は宙に舞い、男が立ち塞がっている場所を飛び越え、地面に降りる。
振り返ると、あぜんとした表情で、口を開け、男が見ていた。
それににっこり笑うと、軽く走り出した。
しばらくして、「くそ―!」と叫ぶ声がして、犬がさらに数を増やし、ワンワン鳴く声もしたが、気にしなかった。
人が集まっていそうな広場は避け、住居の裏手を走っていたら、ふと、気になる住居があった。湖畔の部族の住居も、自分達と同じ作りだ。
だがその住居は、かなり丁寧に作りこまれているような気がした。
と、その時、一人の女性が、その住居に近づき、入口の敷布を捲って入って行った。
シルフィが、近くの住居の影に隠れていることにも気付かず、少し急いでいるようでもあった。
だが、ほどなくしてその女性は出て来て、広場の方へと歩いて行った。
年の頃は、レダぐらいだろうか。中の様子を伺い、そして確認して出て行った、という感じだった。
シルフィの感は、あの住居がセアドの住居だと告げているが、しかし、何と言うか、思っていたのと感じが違う。
どう思っていたのか、と言われると困るのだが。
静か……と言うのか。
どことなく、父が逝く前の、自分達の住居の雰囲気にも似ているような気がした。
あの頃は、自分もそしてシルファも、とても静かに生活するようにしていた。
父をゆっくり休ませるために、そして、やがて来る別れを、恐れるように。
それは、毎日住居に来る、ヤヌスの父を気遣う意味もあった。
もの音一つさせぬように、住居の外にいても注意していた。
もっとも、今が昼間で、周りに人がいないというせいかもしれないのだが。
まちがっているかもしれないな、と思いながらも、シルフィは、周りに誰もいないことを確認すると、そっと住居に近づき、入口の敷布を捲った。
「……イア。どうした、戻ってきたのか?」
入口から、ちょうど中央になる位置に、男が一人、座っていた。
神に捧げられる黄金の石と同じ色の、長い髪を持っていた。
その男は、シルフィの姿を見ると、若草色の瞳を大きく見開き、シルフィを見つめた。
その男に、シルフィはペコリと頭を下げた。
先ほどの男と比べると、どう見ても、この男は、自分より年上だった。
ヤヌスよりは年上だが、同じ部族の、スレイよりは若いようだった。
「えーと、ここ、セアドって人が住んでいるじゃないんですか?」
「セアドは、我が弟の名だよ、シルフィ」
その瞬間。今度は、シルフィが、目を丸くする番だった。
「あいかわらずの、
「―えっ?」
どこか懐かしげにそう言われ。
シルフィは、本当に、目をぱちくりとさせるしかなかった。
★★★
「誰か、来たのですか?」
ぱさりと、敷布を捲りながら、セアドは住居の中に入った。
部屋の中央には兄が座っており、その言葉に小さく笑った。
「どうしてそう思う?」
「マーニが、よそ者が侵入してきた、と言っていましたから」
もっとも、マーニの話はそれだけで、くわしいことは聞いていない。
「客人が来たのだよ」
「客人?」
「お前に会いに来たようだが、たいていの男は、陽のあるうちは、狩りに行くということを忘れていたらしい」
そう言って、兄は楽しそうに笑った。
こんな表情の兄を見るのも、久しぶりだった。
自分よりも、四回前の実りの季節に生まれた兄は、狩りの時に大ケガをして以来、足がまったく動かなくなってしまった。
本人は、淡々とその事実を受け入れていたが、以来、生来寡黙だったところが、さらに進んでしまったところがあった。
「……楽しそうですね」
「久々に会ったからな」
その言葉に、今度はセアドが目を細めた。
兄が久々に会ったと言うのであれば、それはシルファとシルフィのことだろう、とは察しがついた。
あの二人の母親は、先の長であった自分達の父の妹だった。
長の妹であったのにもかかわらず、彼女は部族以外の男―シーファと出会い、部族の者達の反対を押し切って、彼の妻となったのだ。
他の部族の者と結ばれる者はまれにいたが、長の身内が他の部族の者の妻になる、ということはかつてなかったことだった。
ただ父は、シーファの人柄を知るにつれて、彼が妹の夫に相応しい人物だと判断したようだった。
シルファ達の母が亡くなった後も、何かと残されたシーファ達家族のことを気にかけていた。
時々は、シーファがよく行っていたあの洞窟にも、自分達を連れて訪れていた。そんな時、あの双子の姉弟もいたのだ。
「それは、
そう聞いた自分に、兄は、「おや?」という顔をしたが、笑いながら首を振った。
「あれは、風の神ではないな。とんだ、暴れん
暴れん坊。
昔、兄が笑いながら、そう言っていた相手は、シルフィだった。
そのたびに、『ちがうもん、ちがうもん!』と、シルフィは、回らない舌で言っていた。―だが。
言いしれぬ不安が、セアドを襲った。
前の日も、その前の日も。自分は、あの洞窟に行っていない。
それは、シルファの体に「飢え」を覚えさせるためと、いいかげん、狩りをして獲物をまた捕らえなければならなかったこともある。
兄や自分の分だけではなく、自分の留守の間に、兄の世話をしてくれる女達にも、礼の意味で渡す獲物も必要なのだ。
でも。
この兄に、シルファが会ったとしたら。
―不自由な体でありながら、それでも長としての責務を果たし、部族の者達に認められているこの男を、シルファが見たら。どう思うのだろう、と。
幼い頃。
『セアド』と笑って、自分に近寄って来た、愛しい者。
ずっと、会えることを楽しみにしていた。
そうして成長した彼と再会して。自分の思いも、形を変えて育っていたことを、痛感した。
愛しく思う気持ちは同じでも、そこに欲望が加わり、幼い頃にはなかった、黒い感情もあった。
だが、それでも。
手に入れたい、と思うのだ。
誰にも渡したくない、と思うのだ。
それが、たとえ尊敬する兄であっても。
★★★
敏感な部分に、温かく、濡れた感触を感じた。
(あ、あ……!)
ピチャ、という音がやけにはっきりと聞こえてくる。
自分の足を大きく開いて、中心に顔を埋めている男がいる。
ピチャ、ピチャ、という音と共に、自分の体に快感が走る。
(やぁ!)
体中の熱が、体の中心に集まってくるのがわかった。
(お願い、もう……)
自分の声も、どこか普段と違う。
だが、自分自身を銜えている男は止める気はなく、そのまま刺激を与え続けた。
(あっ、あっ、もう、セア、ド……、セアド……!)
★
自分の言っている言葉で、目が覚めた。
はっとなって辺りを見回すと、近くで眠っているシルフィの姿が見えた。
まだ辺りは暗く、夜が明ける前であることがわかる。
「……夢、か」
小さく呟いて、シルファは目を閉じた。
熱くなった体は、素直に快感を求めていた。
何故、あんな夢を見たのか。
今なら、わかる。
夢で自分を抱いているのは、セアドだ。
セアドに、抱かれる夢。
そして夢の中で、自分は素直に感じていた。
前の日も。
その前の日も、セアドはあの洞窟に来なかった。
『またな』と、言ったくせに。
洞窟で作業をしていて、何かの物音がするたびに、セアドかと思って顔を上げた。
それが裏切られるたびに、何かが自分の中に沈み込んで来るのがわかった。
どうして、こんな気持ちになるのか。
つい最近、知り合ったばかりだと言うのに。
自分に、あんなことをした人物でもあると言うのに。
その瞬間、どっくん、と体が疼くのがわかった。
『気持ちがいいか?』
それと同時に、セアドに囁かれた言葉も思い出す。
シルファは、ぎゅっと、自分の体を抱きしめる。
そして、そのまま体を枯れ草の中に埋めた。
外では、雨が降り始めたようだった。雨の降る音が、静かに響いていた。
★
夜が明ける前から降り続いていた雨は、止む気配がなかった。
こんな日には、狩りや釣りはもちろん、森で木の実や薬草を探したり、器や道具を作ったりすることもできない。
たいていの者達は各々の住居で、一日を過ごすしかなかった。
でも、雨で退屈しきったシルフィは、『ミルのところに行って来る』とそう言って、出かけて行ってしまった。
風の神の加護を受けているせいなのか、シルフィは、じっとしていることが苦手だ。
もっとも、その片割れである自分はそうでもないので、シルフィの、もともとの性格なのかもしれなかった。
シルファは、雨の日はたいてい薬草の選別や手入れをしていた。
薬草は、日に干して乾燥させてから、住居の天井に吊るしているが、やはりカビが生えたりするのだ。
また、新しい薬草をつる草のつるで一つにまとめ吊るすのも、たいてい雨の日にやっていた。
屋根に雨が当たる音を聞きながら、シルファは、その隙間から差し込む明るさを頼りに天井に薬草を吊るす作業を続けていた。
それに、洞窟にいなければ、何時セアドが来るのかと、そんな思いを抱くこともない。
あの男が、ここに来るはずがないからだ。
でも、その時だった。
ざあああという雨の降る音が、一瞬はっきりと聞こえて、入口にかけてある敷物が、捲られる気配があった。
「シルフィ、戻ったの?」
当然のごとく、シルファは双子の姉の名を呼んで、振り返った。
だが、そこに立っていたのは。
目を丸くした瞬間に、引き寄せられた。
名を呼ぶことすら、できなかった。
「あ、んっ、んっ、……」
唇を重ねられて、すぐさま舌が入ってきた。
そして、シルファの舌と絡み合い、強く吸われる。
男の、炎と同じ色の髪はじっくりと濡れていた。
「あ、待って、あっ、んっ、んっ、んんんっ」
唇が離れた時、男の体も濡れていることに気付いたシルファは、そう口にしようとしたが、それもまた口付けられて封じ込められてしまう。
くちゅくちゅと、口の中で舌が絡み合う。
その間にも、男の手はシルファの腰につけられたつるを解き、手早くシルファの両手を上げると、唇を離して衣を脱がしてしまった。
え、と思う間もなく、男はそのままシルファを枯れ草が敷き詰められた寝床に押し倒してしまう。
「ま、待って、セアド。なんでここに……あっ」
どうしてここにいるのかと聞こうとした瞬間、セアドの両手が、シルファの胸の飾りを強く押した。
「あっ、あっ、あっ」
「―どうして、来なかった?」
そうして、そのまま、シルファの胸の飾りを両手でもみ始めながら言った。
「えっ、あっ、あっ、あっ、なに……ああんっ」
「来なかったな、洞窟に」
その短い言葉と同時に、胸の飾りがさらに強くもみこまれる。
「あ、あああん! あ、雨…あ、あああっ」
そこで感じることを教えられたシルファの体は、強く胸を刺激されただけで、素直に感じ始めていた。
「雨が降っていたから、来なかったのか?」
それなのに、自分を快楽へと陥れている男は、静かな表情でそんなことを聞く。
荒い息を吐きながらも、シルファは何とか頷いた。
だが。
「信じられないな」
酷いことを、男は言った。
そしてそのまま、シルファの胸をさらに強く押さえてもみ始めた。
「ああああん! あっ、あっ、な、あああ!」
だが、シルファは必死になって首を振った。
自分は、前の日も、その前の日もあの洞窟へ行ったのだ。
それなのに。
来なかったのは、この男の方なのに。
男が来なかった間、自分はどんな思いでいたのか。
どんなに……寂しかったか。『またな』と言いながら、どうして来ないのかと。
何度、自分の心の中でその問いを繰り返しただろう。
「あっ、あなた、だ、ああっ…や、やあ」
何とか、そのことをシルファは言おうとするが、途切れなく与えられる刺激が、そのことを許してくれない。
「それとも、雨が降っていなかったら、行くつもりだったのか?」
真上から自分を覗き込んでいるセアドに、頷くのが精一杯だった。
「あ、あ、あああっ……!」
体中の熱が、下半身に集まってくる。
と、その時だった。
「ラルダに……兄さんに会ったのか?」
胸を刺激していた手が止まり、そう、セアドは聞いてきた。
「え……?」
一瞬、何を言われたのかわからず、シルファは、自分の真上にある男の顔を見る。ラルダ、という名前に、シルファは心当たりがなかった。
「知らないのか?」
あいもかわらず、セアドは表情も変えずに、今度はシルファの胸の飾りの先っぽを指で摘みながら聞いてくる。
「あっ」
「知らないのか?」
「し、知りま……あっ、あっ、」
「……そうか」
そう言うと、セアドはシルファの胸の片方にしゃぶりついてきた。
そして、ちゅぱちゅぱと口で先端を吸い始める。
「やあっ、ああ、ああ……!」
そしてもう片方の飾りは、手でまたしても強くもまれた。
「あ、あ、あ、もう、もう……!」
限界が来る。体中の熱が集まって、堪らなくなる。
その時を見計らったように、セアドが、シルファの胸からゆっくりと体を起こした。
そうして、そのままシルファの足を持つと、大きく開かせた。
「やあっ」
羞恥でシルファが首を振ると、
「体は、嫌じゃないみたいだぞ」
今まで表情を変えなかった男が、そう言ってにやりと笑った。
★
雨の降る音が、外から聞こえてくる。
湿った空気が、ここにも流れ込んで来ているのがわかった。
だが今のシルファには、雨の音よりも、自分をなぶるセアドの、舌の濡れた音の方がはっきり聞こえた。
「もう、いや……もう、ああっ!」
行為を止めるように頼む言葉は、セアドが自分の後蕾をなぶる舌の動きで、喘ぎとなる。
自分の足を大きく開き、その舌で自分のあられもないところを蹂躙する彼は、止める気など、まったくないようだった。
誰にも触らせたことがない、自分ですらもめったに触らない場所に、舌を這わせ、動かしている。
「もう……あ……もう、もう……!」
セアドと、名を呼んだ。
だが、やっと自分の後蕾から舌を離して、顔を上げた男はとんでもないことを聞いてきた。
「どっちがいい? シルファ」
そうして、立ち上がったシルファ自身の根元を握りしめてくる。
「なっ……やああっ」
根元を握りしめたまま、反対の手で、ぬるぬると先の方を揉みこまれた。
「手がいいか?」
言われた瞬間、顔が朱に染まった。
だがそれは次の瞬間には、霧散した。
濡れた感触が、自分自身を包んだのだ。
ちゃぷちゃぷと、先端を数回しゃぶられた。
「やああんっ」
「それとも、口か?」
もうまともに考えられず、シルファはただ首を振る。
「そうか。まだ、感じ足りないんだな」
セアドはそう言うと、シルファ自身の根元を握りしめたまま、今度はシルファの胸の飾りをしゃぶり始めた。
ちゅぱちゅぱと、まるで赤子が乳を含むように吸われる。
「あっ、あっ、あっ!」
熱い激流が、体中を巡る。
それらは途中で塞き止められ、放出できない。
それなのに、新たな刺激を与えられて、その激流の勢いを大きくさせる。
「あっ……ああっ」
もう何も、考えることができなかった。
「セアド……セアドっ、もう……、もう…!」
助けてと、男の背にすがりつきながら彼の名を呼ぶ。
その瞬間、セアドが息を飲み、動きを止めたことも気付かずに。そうして、次の瞬間。
「あっ……あ……あっあっあっ!」
またしても、生温かいものに、自分自身が包み込まれたことを感じた。
「や、やあっああ!」
激流が、男の口の中に解放される。
だが彼はそこから口を離さず、シルファが放出したものを飲み込んだ後も、執拗にしゃぶり続けた。
「セアド、あっいや、あっあっ……あああっ……!」
「あいかわらず、感じやすいな」
熱を持った声で唇を離したセアドは言ったが、シルファは、その言葉の意味すら考える間もなかった。
「ひっ」
くぷんと、後蕾に入り込んでくる感触《もの》がある。
それは、くちゅ、くちゅと、シルファの内を動き、刺激を与えてくる。
「あっ、あっ、ああああ!」
そして、最初に感じた違和感は、すぐに違うものに変わった。
「や、や、やあっっっん」
今まで感じていたものとは、比べられないほど強いものが、体中に湧き上がってくる。
「あ、あ、ああっ」
セアドは、シルファの内側に入れる指を二本にしたが、快感に支配されたシルファにはわからなかった。
「あ、ああ……、あああんっ!」
先ほどセアドの口内で高ぶられた熱が、またしても、解放を望んでシルファの中心に集まってくる。
その瞬間。シルファの内側にあったセアドの指が、動いた。
「やあん、あ、あ、ああああっ……!」
一番感じやすい部分を刺激され、シルファの体の中にあった熱が解放される。
だが、そこで終わりではなかった。
シルファの熱がまた解放されているのにも関わらず、セアドは、シルファの腰を持ち上げた。
「や、なに、あっ、あっ……や、やあ、や、やあ!?」
そうして。
次に、熱く、固く、大きいものが、シルファの内側に入ってくる。
熱を放出しているシルファ自身と。
ゆっくりシルファの後ろを犯してくるものと。
「あっあっあっ!」
「これが、俺だ」
前と後ろと、同時に感じて喘ぐシルファに、体を重ねたセアドは掠れた声でそう言った。
それと同時に、体の内側のそれが、くいっと動いた。
「やあ、やあ、ああんっ……!」
とたんに、シルファの体に熱が走る。
「しっかり、覚えろ」
そう言うと男は、ぐいぐいと動き出した。
「やあ、や、や、や、あ、ああん、あ、ああっ……!」
それは、強烈なものだった。
今まで与えられた刺激の中でも、一番強いものだった。
シルファはもう何もわからず、自分がどんな声をあげているのかも、どんな狂態をセアドに見せているのかもわからず、ただ、与えられる快感を、感じ続けるしかなかった。
★
男自身を銜えたまま、シルファはその膝の上に、向き合うように抱き上げられた。
「ああっ……」
とたんに、自分の重みで、深く内側に銜えこんでしまう。
「悪い、だいじょうぶか?」
そんなシルファに、指を伸ばしながらセアドが言った。
そのまま、シルファの頬に触れてくる。
「痛いか?」
小さく問いかける言葉に、シルファは首を振った。
痛くはない。
ただ、内側にいるセアド自身を感じて、どうしようもないのだ。
「どうして……こんなこと……」
それでも、ずっと尋ねてみたかったことを、シルファはセアドに問うた。
「―お前は?」
セアドの指が、シルファの頬を滑り、早朝の積もった雪と同じ色をした髪へと伸びる。
「どうして、素直に俺に抱かれる?」
「それは……」
黄金の瞳が、自分を見つめている。
どうして自分は、この男に素直に抱かれているのか。
「!?」
と、その時だった。
くいっと、セアドが腰を動かした。
ゆるやかに、シルファの腰を回すように動いていく。
「あっ……」
シルファは息を飲み、とっさに、男の肩につかまった。
「どうして、されるがままになっている?」
ゆったりと腰を動かしながら、セアドは言った。
「あっ、あっ、あっ……」
だが、ゆるやかな動きでも、先ほどまでさんざん喘がされ、幾度も熱を解放させられた体には、刺激となる。
「気持ちが、いいからか?」
快感を拾い出し、震えるシルファの耳に、そうセアドは囁いた。
とっさに、シルファは首を振った。
「違、う……」
「そう、なのか?」
疑うようなセアドの言葉に、もう一度、シルファは首を振った。
確かにこの男に抱かれた時に、快感は、感じている。
だが、それだけではない。
何故、セアドに抱かれるのを許すのか。
その、理由は。
その思いを、シルファは、はっきりと言葉にすることができなかった。
と、その瞬間だった。
「!? やっ……やあ、やああああ!」
男がシルファの腰に手を添えて、下から刺激を与え始めた。
その動きは、さっきまでの緩やかさが嘘のように激しい。
「あっ、あっ、ああっ!」
「お前が答えられないなら、俺も答えられないな」
シルファに下から刺激を与え、シルファの腰を揺らしながらセアドが言う。
「でも、一緒だな。俺も、そうだよ」
そうして。
完全にシルファが快感の波に飲まれる前に。
シルファの耳元で、男はそう囁いた。
えっ? と思った瞬間。
「やあああんっ!……やあ、や、ああ……あああっ!」
シルファは、セアドから与えられる新たな刺激にさらわれ、己を失くしていった。
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