8烟草
輩が道端で烟草を吸ってる。
思い出す。
――――――――――
町の曲がり角で音が聞こえた。
「毎度。」
振り向く。そこは烟草を売ってる店だった。
鬼がこちらに気がつく。
優しい目で手招きしてきた。そちらへ行く。
「どうしたん?烟草欲しい?」
店の中は狭く物が散らかってる。壁に箱が埋まっており、そこに恐らく烟草入っているのだろう。
「え……っと。お金持ってなくて。」
申し訳ない。前の自分はそう思ってしまった。
「いいよ、いいよ。一本だけあげる。」
「……!」
使いが目をきらきら輝かせる。カウンターに背がぎりぎり届く高さで。
「……分からない。お勧めください。」
声が小さくなる。伝わっているのだろうか。
「ん。分かった。じゃあ人魚ね。」
優しく微笑んでくれる。夕陽に包まれる。
「特別ね。」
俺の小さな手に乗せてくれた。鬼は口に人差し指を置いて、にひひと笑う顔をしていた。マッチを擦った火を近づけてくれた。煙草が灯る。
――――――――――――――
「ん。また来たんか。」
揶揄った様な顔で言われる。頬杖をついている。
「通っただけです。」
「じゃ、なんで寄ってるん?」
使いが顰めっ面。
「前のお礼を言おうとして。その節はどうもありがとうございました。」
「んふふ。いいよぉ。」
絶対知ってる。ここに来たかったって。
「これを。」
前の烟草のお金だ。鬼の前へ渡す。
「いらんよ。あれは俺があげたいから、あげたんやから。それより他の買ってて。」
何処までも変な奴だ。優しすぎる。
「分りました。では人魚を。」
「はいよ。」
鬼がにまにま笑って烟草を探す。見透かされててなんだか嫌だ。
「人魚ね。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
烟草を受け取る。パッケージがきらきらと鱗の様に反射している。その場から去る。
烟草を点ける。
薄暗い路地で誰かが烟草を吸っている。覗く。しゃがみ込んで吸っていた。そいつの鋭い目がこちらを向く。
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